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乳母は見届ける  作者: かも ねぎ
少年期
40/65

40 偽りの誕生

 王宮の奥、しばらく沈黙を守っていたルクレツィア側妃の離宮に、久方ぶりに慌ただしさが戻っていた。


 長い妊娠期間、彼女はほとんどベッドの住人だった。体調はすぐれず、彼女が恐れていたのは自分の体ではなく、何も仕掛けられぬまま時だけが過ぎていくことだった。

 陣痛が始まっても、その苛立ちは消えない。


 しかし、産声の代わりに響いたのは産婆の悲鳴だった。


 茶色の瞳の王と黒目の側妃――だが、生まれた子の瞳は紫。

 美しいが、あまりにも真実を語る色。ルクレツィアはその瞳をよく知っていた。お気に入りの商人ティベリウスの瞳。


「そんなはずは……」


 唇が震え、否定の言葉が出ない。信じて疑わなかったからこそ、その現実は彼女を打ちのめした。


 ルクレツィアは大金をはたき、産婆に口止めと密命を下した。


――この子は死産だったことにしろ。

 ティベリウスに渡し、二度と私の前に現れるな。


 部屋には産声の代わりに、重苦しい沈黙だけが残った。


◇◇◇


 同じ頃、白亜の離宮へ報せが届いた。

 王太子、王女、そして王太后が本殿へ戻ることが決まったのだ。


 しばらく彼らが住まうのは、本殿隣の華の離宮。かつて王太后が暮らし、今は人の気配の途絶えていた場所だ。


 正妃の指揮の下、使用人や庭師たちが慌ただしく整備が始められている。王宮内の腹心たちからは次々と報告が届いた。


 王太后はその手紙に目を通し、薄く笑んだ。


「……やっと、目が覚めたのね」


 白亜の離宮に差し込む光の中、その笑みは冷たくも強かった。

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