32 けじめの道
正妃が時間を作ると言ったのは、その二日後のことだった。
緑の離宮の奥、静かな午前の空気を裂くように、馬車の車輪が砂利を踏む音が響いている。
「母上は本当に……トフィーネ卿に会いに行くんだよね?」
馬車の中、エドワードは堅苦しい姿勢のまま、落ち着かない声でセラフィーナに問いかけた。
彼の両手は膝の上で強く握りしめられている。
アウレリウスはエドワードの横で気軽に足を組み替えながら、エドワードの言葉に沿うように言葉を足す。
「気まずくないのかな。正妃殿下とトフィーネ卿の関係も気まずいし、エドは陛下とのお子なんだから、余計にトフィーネ卿に会わせるのは気まずいはずだよね」
セラフィーナは微笑んだ。
「けじめをつけたいのではないかしら」
その言葉にエドワードもアウレリウスも、ストンと腑に落ちたように黙る。
「けじめ……」
カールも馬車の外で付き従っていたが、彼は終始無言で、ただ外の景色を警戒するように見つめていた。
エドワード達の馬車の後ろには、馬上の近衛騎士に囲まれた王族用の馬車が走っている。
その中で、アイラ正妃は今何を思っているのだろうか。
窓の外には、宮殿群が見える。緑の離宮も本殿から離れたところにあるが、ギルベルト•トフィーネのいる第三騎士団もまた、本殿から遠くにあった。本殿をぐるりと囲う巨大庭園を抜け、道は質素になっていく。
そこに追いやられた一人の武人の姿を思うと、エドワードの胸の奥に鈍い痛みが走る。




