29 憧れの剣
緑の離宮 庭
「レオネル……」
緑の離宮の庭で、木陰に腰かけながらエドワードがぽつりと口にした。
「兄上が敬っている方……どんな人なんだろうね」
「そうだよね。気になるなぁ」
アウレリウスが頷くと、二人の会話を聞いていた護衛のカールが「近衛か……」と低く呟いた。
その視線が、そばにいたセラフィーナへとちらりと流れる。
セラフィーナはひとつ小さく息を吐き、しっかりとした声で言った。
「そうね。二人も、もう知っていていい時期かもしれません」
二人が目を丸くする。セラフィーナは彼らの顔を一人ずつ見てから、静かに話しはじめた。
「ギルベルト・トフィーネ――その名を聞いたことは?」
エドワードは一瞬考え込み、控えめに首を横に振る。アウレリウスも同じだった。
「トフィーネ殿は、かつてお妃様……あなた方の母君、アイラ様の婚約者でいらした近衛騎士の方なのですよ」
「えっ……!」
驚きに目を見開く二人。
「けれど、国王陛下が横槍を入れ、婚約は破談になりました。ギルベルト様は近衛騎士団の花形でしたが、左遷され、今は第三騎士団の副団長を務めています」
カールが言葉を継ぐ。
「けど、ギルベルト副団長はただじゃ転ばなかったんです。セラフィーナ様の夫君――オズワルド殿が彼を引き入れて、新たに補欠組を作った。表向きの隊長は俺ですが、実際に指揮しているのはギルベルト副団長です」
エドワルドとアウレリウスは顔を見合わせ、ただ唖然としている。
「ギルベルト様とレオネル様は、もともと近衛での同僚でした。いずれギルベルト様の名前は王族であるあなた方の耳にも入ることになるでしょう」
セラフィーナの声には重みがあった。
カールはふっと笑い、やや照れくさそうに言う。
「副団長はね、本当に……男が惚れ惚れするほど格好いい方です。そしてレオネル様もまた、同じくらい格好いい騎士ですよ」
エドワードの胸が高鳴る。
(兄上がそんな方を敬っているのか……。いつか会ってみたい)
◇◇◇
訓練所での再会
数日後、カールに連れられ、二人は久しぶりに訓練所へと足を運んだ。
「懐かしいね」
「うん……でも、少し緊張するな」
そう囁き合いながら門をくぐると、広い土の稽古場が目に飛び込んできた。
そこでは十数人の騎士が剣を振るい、その中心で、一際大きな体格の少年が汗を飛ばしながら稽古に励んでいる。
マクシミリアンだった。
短く切り揃えられた黒髪が太陽に照らされ、力強く剣を振るう姿は、すでに少年の域を越えた迫力を帯びていた。
その姿を見て、エドワードの口から思わず声が漏れる。
「うわ……兄上、かっこいい……」
アウレリウスも言葉を失い、ただ目を奪われていた。




