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乳母は見届ける  作者: かも ねぎ
少年期
28/65

28 氷解の兆し

知識の塔 講義室 四回目


 講義終了の合図が鳴り響いた瞬間、エドワードは勢いよく立ち上がった。

 その慌てぶりに、隣のアウレリウスは思わず吹き出しそうになる。

「ちょ、ちょっと急ぎすぎだよ」

 小声で言いながらも、結局エドワードの背を追いかける。

 マクシミリアンはいつものように講義室の中央に座していた。

 そこへ二人が近づくと、取り巻きの少年が素早く立ちはだかった。


「マクシミリアン殿下に何か用か。呪われた王子ごときが」


 エドワードの肩がびくりと震える。その前に出ようとしたアウレリウスより早く、低い声が室内に響いた。


「やめろ」


「で、殿下! ですが……」

「やめろと言った。王族の兄弟の会話に口を挟む権限を、おまえは持ち合わせているのか?」


 背の高いマクシミリアンに見下ろされ、少年は蒼ざめて震えだす。


「も、申し訳ありません……!」


「いい。今回は許す。他の者と先に帰れ」


「は、はいっ!」


 少年は足をもつれさせながら逃げていった。

 アウレリウスは彼の名を心の中で覚えながらも――マクシミリアンがこんなに話すところを見たのは初めてかも、と別のことをぼんやり考えていた。


 残されたエドワードとマクシミリアンは、互いに視線を交わす。


「こ、こ、こんにちは。兄上」


「ああ」


「……」

「……」


 ぎこちない沈黙の後、マクシミリアンが唐突に言った。


「お前は、もう訓練所には来ないのか?」


「え……。あ、はい。僕もアウレリウスも小柄で、剣術はあまり得意ではありませんでしたので……。今は離宮で護身術と体力づくりを中心に、護衛の騎士から学んでいます。だから訓練所にはもう……」


「そうか。俺はレオネルという近衛騎士に教わっている。とても尊敬できる男だ」


「レオネル……騎士、ですか」


「お前も、たまには来い」


「えっ……は、はい!」


「それでは、また」


 マクシミリアンは最後まで表情を変えずに言い切ると、すっと背を向けて歩き去った。


 ぽかんと立ち尽くすエドワードの肩を、アウレリウスがそっと叩く。

 エドワードははにかみながら、ゆっくりと微笑んだ。


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