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乳母は見届ける  作者: かも ねぎ
少年期
25/65

25 二人の母

本殿 東翼


 艶やかなカーテンに囲まれた一室。側妃ルクレツィアはベッドに横たわり、額にうっすらと汗を滲ませていた。懐妊が判明して以来、吐き気は日ごとに激しくなり、体を起こすことすらままならない。


 使用人が差し出す薬や食べ物に、彼女は悪態をつきながら黒髪を振り払う。だが鋭い瞳は常に人の出入りを追い続けた。


「気持ち悪い! 早く! 早くなんとかしなさいよ!」


 第二王子マクシミリアン妊娠時にはここまでひどくはなかったはずだ。嫌だ、嫌だとルクレツィアは絶叫し、暗く沈んだ瞳には嫉妬と苛立ちが渦巻く。王太子と第三王子の存在が、腹の中の子の価値を脅かすのではないかという疑念が、彼女の心をじわりと蝕んでいた。


 だが、今の彼女にできることは限られている。命を抱え、無力な自分を痛感しながらも、ただ計略を練る日々が続くのだった。


◇◇◇


本殿 西翼


 一方、正妃アイラは淡く煌めくドレスの裾をたおやかに捌き、威風堂々と渡り廊下を歩いていた。時折、近づいてきた侍女がそっと耳打ちをする。


「えぇ、いいわ。そのように」

「御意に」


 音もなく去る侍女の背を見ず、アイラは応接間にたどり着く。従者の手を借りて室内に入ると、深くこうべを垂れた婦人が挨拶した。


「王国の月、真珠の妖精、アイラ正妃殿下にご挨拶申し上げます」


 ブルーグリーンのドレスを纏った婦人に、アイラは可憐な微笑を返す。


「まぁ、シャルベット夫人、大袈裟ですわ。ふふ、楽にして」


 第三王子暗殺未遂の後、これまで無気力であった自身を悔い、政治的な力を取り戻そうと努力してきたアイラ。社交界に影響力を持つシャルベット夫人を味方につけ、さらにそのネットワークを広げながら、確実に力を蓄えている。


 表情は清廉で華やか、可憐に見えるが、その奥には冷たい氷のように研ぎ澄まされた強さが潜んでいる。冷徹さは、王太子コンスタンティンに受け継がれた王者の気質を思わせる。


 アイラは計算し尽くされた微笑を浮かべ、そっと夫人の手を取った。

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