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乳母は見届ける  作者: かも ねぎ
少年期
22/65

22 王太后の独白

白亜の離宮 王太后私室


 夕陽が湖面を赤く染めていた。

 王太后はリクライニングチェアに身を預け、本を膝に置いたまま、もうしばらくページをめくっていない。

 思考はただ未来へと巡っている。


――王太子と王女が宮殿に戻る日。

 その時に備えた使用人の配置。

 大臣たちとの会合をいつ設けるか。

 正妃や側妃への手を打つ時期。


 離宮に移り住んで十三年。

 だが王太后の目は今なお宮廷を見ている。

 腹心たちは宮廷の要所に潜み、動く時を待っている。

「王太子を守ること」――それこそが自分に課せられた唯一の使命。


 夫である先王のことを思い返す。

 幼き日に婚約を定められた男は、いつまでも子どものように無邪気で、無害で、愚かだった。

 狩りや釣りに夢中で、政治に関心を持たず、公娼に入れあげた時期すらある。

 だが、何も求めず、何も口を出さず、ただ放任してくれる夫は、王太后にとってはむしろ好都合であった。

 その隙に人員を入れ替え、政治の場を掌握した。

 政を動かすことは楽しかった。――それこそ自分が生まれてきた意味だと思えるほどに。


 けれど、子の成長には目を向けなかった。

 唯一の王子は、夫にはない邪悪さを宿して育った。

 人のものを奪い、愉悦に浸る――その醜さを見るたびに、王太后はますます息子を顧みることができなくなった。


 その王子は、「当代随一の美丈夫」などと謳われた美貌の騎士ギルベルトに対抗心を燃やし、無理やり彼の婚約者であった真珠姫を奪って正妃に据えた。

 そして生まれたのが、王太子である。

 真珠姫は美しかった。だが、引き離された反動か、生気を失い、魂を抜かれたような女になってしまった。


 代々の王は二十歳前後で玉座を譲る習わしがある。

 夫もまた何も考えずに王位を退き、精神的に幼すぎる息子を王座に据えた。

 支えとなるはずの正妃は役立たず。

 側妃は欲望ばかりが強く、浅知恵で、ついには王太子の命まで狙ったことがある。


 だからこそ、王太后は決断した。

 腹心に政務を託し、自らは王太子と王女を連れてこの白亜の離宮へと退いた。

 彼らを守るために。

 盤石の治世を築くために。


 やるべきことは山ほどある。

 もはや老体、この身がどこまで持つか分からぬ。

 だが――この手で未来を守り抜かねばならない。

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