20 才能開花【少年期編】
第三王子暗殺未遂事件から五年が経った。
ウルバヌスが古語の教本を開き、問いかける。
「ここ、読めますかな?」
エドワードは空色の瞳を輝かせ、さらさらと流暢に古語を読み上げた。
肩で切り揃えられたプラチナブロンドが揺れる。まだ首筋は華奢だが、その瞳にはすでに聡明さが宿っている。
「大変よろしい。……では、アウレリウス君も」
アウレリウスは父譲りの鳶色の髪をひとつに結わえ、得意げに頷くと、エドワードと同じ発音で一節を読み上げる。
「意味はわかるかね?」
「わかりません!」
エドワードとウルバヌスが笑い、アウレリウスもくすぐったそうに笑った。
部屋の隅で見守っていたセラフィーナは、誇らしげにうんうんとうなづいていた。
◇◇◇
また別の日。第三王子専用護衛部隊”補欠組”隊長のカールが駒を盤に並べ、軍略を教えていた。
「殿下には、もう俺では勝てないな」
エドワードは照れくさそうに笑い、アウレリウスは誇らしげにむずむずと身を揺らす。
「アウレリウス様、これを一から動かして解説できますか?」
「できますよ」
指先で駒を進めながら語るアウレリウスを、カールは感心したように見守った。
エドワードは学問全般に抜群の才能を持つ。語学も地理も経済も、何をやらせても卒なくこなす。
一方でアウレリウスは、ずば抜けた観察力を発揮する少年だった。一度見たことを再現するのが驚くほど巧みで、人や植物の変化を細やかに見抜いてしまう。
二人とも体は小柄で剣術の才には恵まれなかった。だが、それ以外の分野で光を放ちはじめていた。
ウルバヌスはそんな二人を見つめ、穏やかに目を細めた。
「……あなた方は、ただの子どもではなくなってきましたな」
まだ声変わり前のあどけなさを残す少年たち。けれど、盤上を制する才知と、他者を見抜くまなざしは、すでに一国を導く器を思わせた。
カールが腕を組み、感慨深く言葉を添える。
「殿下方の成長は、我々が思うより速いようだ」
エドワードは肩をすくめ、アウレリウスは照れたように笑った。
自覚はまだ薄い。けれど確かに――
二人は次代の担い手になりつつあった。




