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乳母は見届ける  作者: かも ねぎ
幼年期
19/65

19 終幕と序章

緑の離宮


 小さな机を挟み、第三王子エドワードは難しい本を広げ、アウレリウスに指を差して説明していた。

「ここはね……王国の古い法典なんだ。今の制度の基礎になってる」

「ふーん。でもさ、法律があっても守らない奴は守らないんだろ? だったら俺が叩き直してやる!」

 覇気に満ちたアウレリウスの拳に、エドワードは小さく笑った。


 窓辺ではセラフィーナが縫い物をしながら、そんな二人を肝っ玉母さんらしい眼差しで見守っている。

 彼女の肩越しにオズワルドが視線を落とし、ほんの少しだけ柔らかく笑んだ。

「……やっぱり、あなたは無茶をする」

「うふふ、無茶がなきゃ子どもは守れませんわ」


 離れた席では、書類をめくるウルバヌスがやれやれとため息をつく。

 カールも壁に背を預けて立ち、片眉を上げて「まったく」と呟いた。

 だがその口調には、確かな安堵と誇りが滲んでいた。


◇◇◇


王宮・正妃の私室


 正妃の瞳には、以前にはなかった強い光が宿っていた。

 その様子に、腹心の老女たちが思わず顔を見合わせ、喜びを隠せずに笑う。

「……やっと、我らが王妃様が戻られた」

 正妃は微笑んだ――柔らかく、それでいて決して折れぬ意志を秘めて。


◇◇◇


王宮・側妃の居室


 ルクレツィアは肘掛け椅子に座り込み、苛立ちを隠そうともせず爪を噛んでいた。

「どうしてなのよ……どうして邪魔ばかり入るの……!」

そんな彼女の背後から、愛人の商人が肩に手を置き、低く囁く。

「焦らないで……あなたは必ず勝つ。僕がついている」

妖艶な微笑みで彼女を宥める姿は、甘美でありながらどこか破滅の香りを孕んでいた。


◇◇◇


王宮・玉座の間の奥


 国王は呑気に仲間たちとカード遊びに興じていた。

「ほら、また俺の勝ちだ! いやはや運も実力のうちってな!」

臣下たちが乾いた笑いを漏らす。

王の心に、暗殺未遂事件の影など微塵も残っていなかった。


◇◇◇


白亜の離宮


 湖に釣り糸を垂れる先王の隣で、王太后は厳しい面差しを崩さずに報告を受けていた。

「……またもや王子が狙われたと」

「ええ。ですが乳母が守ったそうです」


 その頃、室内では王太子と王女が顔を突き合わせていた。

「僕らも狙われるかもな」

「ふふ、洒落にならないわ」

 子どもらしからぬ悪い笑みを浮かべる二人。

その双眸には、すでに「次代の覇者」の影が潜んでいた。


◇◇◇


 こうして、血と策謀に彩られた王家の幼少期は幕を閉じる。

 だが――これは、さらなる嵐の始まりにすぎなかった。

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