17 母の勘
馬車が緑の離宮に駆け込むや否や、オズワルドは半狂乱でセラフィーナを抱え、医師を呼び寄せた。
エドワードとアウレリウスも涙で顔をぐしゃぐしゃにして、セラフィーナの手を握りしめて離さない。
「セフィ! 喋るな! じっとしてろ!」
「もうやだ! 置いていかないでよ!」
「……痛い? ねえ、痛いの……?」
子供らしい必死の声に、セラフィーナは一度は目を閉じていたが、次の瞬間、ふっと笑って上体を起こした。
「大げさですわね。ほら、この通り」
背中に突き刺さっていた矢は途中で止まっていた。ドレスを脱がせると、鉄板が胸と背を覆っており、そこに矢尻が歪んで食い込んでいた。
「……ドレスの下に鉄板、ですって……?」
オズワルドは目を剥いた。
「今朝、なんとなく思いついてシーナに仕込んでもらったのです。ほら、直感というやつ」
ケロリと答えるセラフィーナに、三人は一斉に叫んだ。
「なんとなくって何だよ!!」(オズワルド)
「そんな危ないの、前もって言ってよ!」(エドワード)
「僕、死ぬほど怖かったんだぞ!」(アウレリウス)
珍しく三人にボロクソに責め立てられ、セラフィーナは「はいはい、うるさい子どもたちですね」と笑いながらも、心の奥底では嬉しくてたまらなかった。
「でも、あなたたちが無事なら、それでいいのです」
そう言って軽く額を撫でられると、三人はもう一度わんわん泣いてしまう。
そこへ、息を切らしたカールと、杖をつきながら急ぎ足のウルバヌスが現れる。
「セラフィーナ殿は……!」
「お怪我は……」
二人の視線がドレスから引き抜かれた鉄板と、そこに残った矢尻を見た瞬間、空気がふっと緩んだ。
「……まったく、心臓に悪い乳母殿だ。副団長に早く知らせなければ」
補欠組隊長カールは頭を掻いて笑い、ウルバヌスは大きく息を吐いた。
「神も、母の勘も、今日はよく働いたようだ」
その言葉に、皆が少しだけ安堵の笑みを浮かべる。




