1 乳母の祈り
初投稿。
完結済み作品ですが、手直ししつつ、少しずつ投稿していくつもりです。
よろしくお願いします。
わたくしは乳母である。
今この中庭で、七歳の少年が二人、木陰の芝生を転がりながら笑っている。
ひとりはこの国の第三王子殿下──艶やかなプラチナブロンドに、澄んだ空色の瞳を持つ少年。もうひとりは、わたくしの息子アウレリウス。王子より三か月だけ早く生まれた、鳶色の髪の快活な子だ。
二人の笑い声は、夏の陽射しに透けてきらめき、見ているだけで胸の奥が温かくなる。けれどその一方で、王子殿下の境遇を思うと、わたくしはふと立ち止まってしまうのだ。
殿下は王の子でありながら、第一王子のように手厚く守られているわけでもない。ましてや第二王子のように、側妃の派閥に囲まれているわけでもない。冷遇とまでは言わずとも、この広い宮廷の中で、殿下の居場所は決して広くない。
わたくしはただの乳母にすぎない。
けれど、幼い殿下がこれからどれほどの道を歩むのか、その未来を想うと、胸の奥に祈りが灯る。
どうか、この子が折れぬ心を持ち、まっすぐに成長してくださいますように。
どうか、この国の理不尽に呑まれることなく、立派な青年となられますように。
芝生の上で無邪気に笑う二人を見つめながら、わたくしはそっと胸の前で手を組んだ。




