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【コミカライズ12/26から】魔術師は死んでいた。  作者: 彩白 莱灯
フォリウム学院

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第97話 命

 息を飲む音が聞こえた。

 その理由は図星を吐かれたからか、そう思っている生徒がいることが信じられないということか。

 生徒だからと言って甘い現実はないのだと、そう悟ったのは、どれほどなのか。



「生き物、それも魔物に戦いを挑むんだ。一般人ではない魔術師が挑む相手が、こっちに何もしてこないわけがないだろう。今回は学校側でそうならないように配慮していたが、今後は自分たちでも警戒するんだ。これは放り投げてるんじゃない。自分自身のことを大事にしようとするなら必要なことだ」



 『守る必要がない』という油断。

 『言われなかった』という責任転嫁。

 『もしそうなったら』という悲観。


 生徒という立場を利用した被害的思考を見抜かれていた。

 遠足という学校行事に、恒例のギルド・魔術師団参加。

 魔術クラスに進む生徒としては、必ず通る道なのだろうと思う。

 私を含め、森という環境も、魔物が生息する町の外であることも、討伐任務があるということも、『遠足』という前提によって危機感を失っていた。

 油断。

 ロアさんや他の生徒も、何も言えず足元を見ているしかない。

 知らぬ間に守られていたという状況は、裏を返せば力などないに等しいようなもの。

 生徒だからと言ってしまえばそれまでだが、魔法を使うことに自信がある集団としては、鼻を折られた気分だろう。

 無論。私も。



「……落ち込んで地面ばっか見ててもしょうがないだろ。お前らがすることを思い出せ」



 ぶっきらぼうに、頭をガシガシと搔きながら。

 相変わらず背中を向けたまま言い捨てる。

 大事なことは二度言う主義だったのか。

 自分の足と地面を捉えていた視界と頭を、見るべきものに切り替える。



「ひっ」



 誰かの悲鳴が聞こえた。

 悲鳴を上げたくなるのもわかる。

 今起こっている光景。

 まさに蟻が見ている光景。

 ウロロスよりも高さはないものの、胴体の大きさや長い脚、グロテスクな顔と模様。

 先端で存在感を主張する牙。

 そんな蜘蛛が砂埃を巻き散らし、一直線にこちらへ向かってくる。

 人間側で先頭にいたコモさんがどこかわからない。



「任務を達成し、国を守る。家族を守る。友人を守る。それを心がけるのは良いことだと俺は思うがな」



 砂埃が周囲に広がる。

 地響きが体のバランスを崩す。



「自分を守る。それは任務を達成するよりも大事なことだ。それを心に刻め。そして力を付けろ」



 スパデューダが体を震わせる。

 先生の声が鼓膜を震わす。

 アオイさんが手を上げて視界を揺らす。




 「(デス)最上級魔法(ナエト) ≪影取鬼≫」




 コモさんの声が、しっかりと耳に届いた。

 スグサさんがウーとロロを止めるために使っていた魔法。

 今はコモさんが、スパデューダを止めるために使ったのだとすぐにわかった。

 突然動きを止めたスパデューダの周辺は砂埃が舞い、輪郭にぼかしがかかる。

 しかしその存在感が霞むことはなく、居るだけで威圧感を感じさせ、さらに距離感を狂わせる。

 輪郭がぼやけたせいで、コモさんを見つけることはできたが、ミニチュア程度にしかわからない。

 それなのに相当の大きさを感じさせるアレは、間近で見たらどんな風になってしまうのか……予想したくもない。

 ≪影取鬼≫のせいで身動きが取れないスパデューダが、強引に動こうとして怒号を発する。

 表現はできない、蟲の叫びだ。

 ここで、アオイさんが静かに手を下ろし、呪文を唱える。

 この呪文は知っている。

 本で読んだだけで、見たことはない。

 本当に限られた人だけが使えるという、火の、特級魔法。

 アオイさんの代名詞。




「…………。(アム)特級魔法(レヴン) ≪炎熱の太陽は我が灼熱に焼かれる≫」




 『太陽すらも燃やす』というその魔法。

 対象に青い炎を着火させ、固体も液体も気体も、全てを燃やし尽くすという。

 着火された場合、あまりの熱さに一瞬で気絶し、意識がないうちに燃え尽きているという。

 注意書きとして、筆者の考えだと書いてあったけど。

 アオイさんの魔法による青い炎が、スパデューダを包む。

 暴れるかと思われたがそんなことはなく、まるでさっきまでの生徒のように、足の力が抜けてへたり込んでしまった。

 炎があがったことによる光で拘束していた影が千切れ、≪影取鬼≫が解かれた。

 そして本に書いてあった通り、あまりの熱さに一瞬で気絶したのだろう。

 スパデューダは一度も動くことはなく、次第に体を小さくしていった。






 ―――――……





 スパデューダの燃え残りはなく、灰すら残っていない。

 ≪炎熱の太陽は我が灼熱に焼かれる≫という魔法は、着火させたものしか燃えず、触れても延焼することはないようだ。

 その証拠に、スパデューダの体の下にあったとされる草は潰されただけで緑色を保っている。

 気絶した間に命を落とす。

 青い炎は、苦しませず、まるで葬送を思わせた。

 そしてその魔法を操ったアオイさんは、圧倒的。

 その言葉に尽きる。



「あいつらほど強くなれとは言わねーが、お前らが憧れて、目標とする奴らだ。しっかり目に焼き付けとけよ」



 忘れたくても忘れられない、忘れたくない光景だった。

 あの巨体を止めた≪影取鬼≫も、計り知れない威力の≪灼熱≫も。

 今は笑顔で団員に指示を出してる人と、いつ喋ってどんな顔をしているのかもわからないミステリアスない人は、魔術科クラスに激甚なる影響を与えた。


 もう一つ。個人的に。

 ≪灼熱≫を使ったのは、アオイさんなりのスぺデューダへの優しさだったらいいと思う。



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