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【コミカライズ12/26から】魔術師は死んでいた。  作者: 彩白 莱灯
フォリウム学院

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第96話 魔術師

 その赤髪にマントと、黒いローブを被った後ろ姿は、こちらに何を合図するでもなく。

 ただただそこで前を見据え、これから起こる何かに対してから視線を逸らさない。

 逸らしてこちらに合図して安心させる方法もあるだろうが、今この時は、油断をしないその姿勢がとても安心する。

 二人の見据えた先では、森があったところに土煙が立ち込めている。

 スグサさんは≪鳴動≫ではないと言った。

 ではあれは、何なのか。

 魔法? 本当の地震? 生き物?

 答える人はおらず、聞く人もいない。

 ただただ見ているしかできない。

 ただ、先頭で土煙を眺める長達には、心当たりがあるようで。



「考察の通りかなー?」

「……だろうな」

「それじゃあ、この先も決めた通りでいい?」



 コモさんが微かに頭を動かし、体も移動させる。

 土煙が薄れつつある森の方へ、一歩、また一歩と、着実に踏みしめていく。

 焦りなんて微塵も感じさせず、不安を煽らず、堂々と。

 コモさんの行動に目が釘付けになっていた。

 が。

 その姿の奥に不自然な影が見えてきた。

 たぶん。動いてる。



「体が起こせない奴も、目だけは動かしてしっかり見ておけよ」



 先生は再度、「見ておけ」と念押しする。

 言われたとおりに見つめていると、その影はやはり動いていて、もっと言えば近づいてきている。

 目を凝らしてみれば、それは地面を水平移動している。

 最初は気のせいだと思っていた地鳴りも、影との距離と比例して大きくなっている。

 そして、大きい音の主はそれ相応の体を持っているようだ。

 三階建ての家、よりももしかしたら大きいかもしれない、小山と言ってもいいほどではないかと思う。

 今はまだ距離があるからいいが、一番近くにいるコモさんとの対比は、言うならば人間と蟻。

 魔物からしたら、私たちは見えてはいても気には留めないような、そんな存在に見えているかもしれない。

 大きさを知ったのと時間差で、鳥肌が立った。



「あれが、ギルドでは最上級討伐任務の対象となる魔物」



 獄蟲(ごくちゅう)・スパデューダ



 蜘蛛を思わせる長い八本足と八個の目。

 ゴツゴツと甲羅のような背を持つ体が連なっている。

 さらに、前方に突き出す牙のようなものも見える。

 生徒のほとんどが息を飲んだ。

 これほどの大きさは、今まで町の中にいた生徒たちも見たことはないのだろう。

 自分が踏みつぶされても気にしないだろう相手が、目の前に迫ってくる。

 それも、この魔物は、自分たちが昨日、踏み入れた森の方から出てきた。

 もしかしたら襲われていたかもしれない。

 そう考えるのは自然な流れだと思う。



「スパデューダは夜行性。森の奥のような暗い場所でも、夜にならないと出てこない。ライラたちが見つけた穴は、アイツが住処を決めるときに試し掘りをした跡だ」



 コモさんはスパデューダに正面から向かうように歩いて行く。

 アオイさんは立ち止まったまま、前を見据える。

 先生は生徒を守るように立ったまま、話を続ける。



「穴自体の報告は上がっていた。だが可能性程度の話だった。今回、生徒が森に入るときにスパデューダでないよう、結界も施して見張りも置いていた。お前らが襲われる可能性は潰していたよ」



 全く気づかなかった。

 それは、それだけ丁寧な魔法が行われていたのと同じこと。



「それでも危険なことに変わりはない!!」



 先生の声が落ち着いていたのに対し、立ち上がって怒気を含ませた声を上げるロアさん。

 怒り、不快、侮蔑、恐怖。

 顔を真っ赤にして、体を小刻みに振るわせて、まるで恨みがこもったような顔をしている。



「先生は俺たちのことを軽んじていた! 警戒していたとしても、確実な保障なんてない! 結界だの見張りだの、そんなものは綺麗ごとだ!」



 口調を荒らげ、息を切らし、身振り手振りを付けて全身を使って抗議する。

 その姿は感情を周辺に伝播させる。

 不安そうな顔をしていた一部の生徒は、苦痛や不快そうな表情へと変えていく。

 表現するならば『信頼していた人に裏切られた』といったところか。

 魔法を使いすぎてへたり込んでいた子も、恐怖から身を縮こませていた子も、一つの矛先に便乗するように声を上げる。



「ロア」



 生徒からの声を差し置いて、名前を呼ぶ。

 弁明も何もしない先生に異様さを感じつつも、その疑問をどこにぶつけるでもなく私は様子を窺い続ける。



「……なんですか」

「お前、卒業したらどうするつもりだ」

「そんなこと今はどうでもいいでしょう!!」



 確かに、今この状況で、ましてや背中を向けた状態で問うことなのかと思うだろう。

 だからこそ異様に感じる。

 だけど、私が思うこの先生は、何が意味があるから、必要な言動をする人だ。

 ……意外だけど。



「言いたくなきゃいいけどよ。ロア以外の奴も聞いとけよ」



 素っ気ない口調のわりに、声のトーンは低く、真剣なことが伝わってくる。

 声を上げていた他の生徒たちも、先生の言葉を待っている。



「魔術科に属する奴は将来、ギルドか魔術師団に入る場合が多い。どちらも本分は戦闘。外敵から国や城を守るのが仕事だ。そこを目指してる奴らが、むしろ今まさに魔物を意気揚々と狩っていた奴らが、なぜ『自分だけは大丈夫』みたいな状況に置かれていると勘違いしているんだ?」

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