第83話 『寄生虫』
鎖を解き、全員を見回す。
鎖は瞬く間に消えていて、おそらくは形を変えたのだと思う。
大分動き回ったり攻撃を受けてたりしてた先生だけど、服も髪も汚れてはいない。
ただちょっと乱れてるだけ。
「怪我してるやつはいるか」
問いかけに答える生徒はおらず、つまりは無事と判断される。
「よし、じゃあ総評」
ある生徒たちは、ワンパターンすぎる。
ある生徒たちは、攻略された後の対策が不十分。
ある生徒は、威力を考えろ。
「四学年になったお前らは、これから近接系の戦いも学んでいく。魔術師は基本遠距離での戦いが主だ。近接は苦手意識がある奴も多い。相手が近接に持ち込もうとしているとき、どうやって自分の得意な場に持ち込むか、考えとけ」
ぶっきらぼうにまとめ、さり気なく宿題を課される。
私としては、近接には受けて立つとでも言えそうな戦い方だけど、今回は向かっていく場面だったからね。
逃げるときは逃げる。
それはもう振り向きもせず。
他のクラスはどうやっているのかわからないが、私の所属するクラスは、訓練場でオリエンテーションを終えた。
よって、今日は下校と言われ、寮に変えることになった。
帰り際に「これからよろしくお願いしますね」と赤い瞳に声をかけられ、背筋に冷たいものを感じた。
―――――……
次の日。教科書類を配って、授業をする。
時間割は、午前中は座学、午後が実技と言ったように大まかに分かれている。
ちなみに今日は、午前中の一時間を使って教科書類の配布がある。
編入試験時に魔力量を測ったが、在学生は前学年の学年末に測っているそうだ。
個人情報になるのでどれくらいというのはあまり話題にはならず、聞くのもマナー違反のようだ。
そして、クラス内で過ごすうちに、かすかに聞こえて来る言葉がある。
『寄生虫』
ん?
と思って聞いていたが、おそらく私のこと。
一部の生徒から言われているようだ。
聞こえた方を向けば、青い髪のロアさんを中心にした集団がいて、私を見ている。
殿下から『間抜け』と言ったことを咎められていたと思ったが、懲りていないというか、鬼の居ぬ間にというか。
目の前の人も「あいつ、前も兄上に咎められてたくせに」って言っている。
『寄生虫』。
『寄生』。
ロアさんは、私が殿下と一緒にいたことも名前からわかっているだろうし……。私が王族に取り入っていると考えているのだろうか。
まあ、がっつり甘えてしまっているし、『寄生虫』と言われてもしょうがないのかなー。
あ、そういえば、スグサさんの体に宿らせてもらってるから、確かに『寄生虫』だ。
うん。お見事。
最初に見かけたときも思ったけど、ロアさんはたぶん、殿下とシオン殿下のことをよく思っていない。
理由はわからないけど、随分とあからさまな、とは思う。
たかが十代中盤の子が、同級生だけでなく上の存在にまで、ただの対抗心どころではなさそうなものを向けているのは……子ども同士だけの話ではなさそうだな。
とまあ、ここまで勝手な妄想。
この世界の上下関係がどうなっているのか、ロアさんの家のウ・ドロー家がどんな人たちなのか知らないので、なんか変だな、というところで留めておくのが無難だと思っている。
幸い、シオン殿下も、ライラさんもナオさんも一緒にいてくれるし、言われるだけならどうってことない。
中の人は「このクソガキが」って言ってくれているので、怒るのはこの人に任せよう。
さて。今はお昼休み。
座学はアオイさんたちから習った範囲だったので、もはや復習しているような感覚だった。
食堂でお昼を食べたのだけど、食費は一月後に請求が来る一括後払い制らしい。
食費分は稼げるようにしたいな。
それかお弁当を作るか。
台所あるし。
鐘の音が響く。
午後の授業は実技。
といっても、授業としては初日なので、前学年までの復習とのことだ。
始業式後と同じように、訓練場に皆が集まった。
服装は動きやすいように体操服やジャージを着ている。
「始める前にお知らせが……エーット……なんだっけ」
なんだっけ。
「あ、思い出した」
思い出した。よかった。
「遠足があります」
はあ。……え?
「はい! いつですか!?」
「来月ー……の十日だったかそれぐらい」
唐突だし曖昧だなあ。
名も知らぬ生徒が続け様に質問したことで、少しずつ情報が得られた。
来月の十日ごろ、国内のキャンプ場に一泊二日の遠足に行く。
国内だしそんなに遠くはないそうだが、移動は転移のよう。
到着してからを重視しているようだ。
その到着してからというのは、ギルドの任務を果たすという物。
といっても採取で、難易度はとても低い。
恐らくの狙いは、集団生活、協力体制、交流、地域貢献といったところか。
そして重要なこと。
初めての、遠出。