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第78話 動き出した『ヒスイ』

 ―――――……






 ―― はい、そこで右に飛んで一回転。さらに上。


「いきなり過ぎるっ」



 白い空間。灰色の空間で話をする前に、体を動かすことを提案した。

 というのも、編入し学校が始まるまでもう時間もあまりない。

 学校のレベルは詳しいことはわからんが、まあ足りないよりかは足りすぎている方がいいだろう。

 何事も、足りすぎている方が余裕も出るし、周りに合わせやすい。

 協調性があればだが。

 今は寮の室内で≪玩具箱≫を展開させ、風の魔法で動き回る練習中。

 これも二属性魔法の同時使用にはなるのだが。

 『結界系の魔法は、展開した時点で完了しているので、他属性との同時使用とはならない』、だったか。

 そんな定義があった。

 初めてその分け方を聞いた時、めんどくさいことしてるなあと思った気がする。

 まあそんなことはさておき。



 ―― おー、動けるようになってきたな。これねら学校でも浮かない程度にはなったか?


「……気のせいかもしれないですけど、スグサさんも楽しんでますね」


 ―― そうだな。楽しんでる。



 実の所、私様は学校には通ったことがない。

 以前に赤髪が入っていたが、私様は編入試験を受けただけで学校には通わなかった。

 もちろん合格はしたのだが、学校で習う内容なんてすでに知っていたし、人と(つる)むのが好きじゃない、というだけの理由。

 基礎学校も通ってない。

 だから学校生活というのは実は初めてだ。

 弟子がやっている機能訓練というのも、私様の視点とは違うところがあるし、物珍しい。

 なにより、弟子はこの世界では知られていない知識を持っている。

 自分で言うが、『未知』というものが目の前にぶら下がっている以上、私様が食いつかない道理はない。

 研究員もいないことだし。

 目の上のたんこぶ。

 目障り。鬱陶しい。嫌い。



 ―― よし、最後に天井に飛んで、直下。


「ちょっ」


 ―― はよ。


 狭い空間の中を飛び回ると言うのも結構大変なもので、距離がない分、即座の判断が必要となる。

 今までは森の中や訓練場で、広い場所ばかりを走り回らせていた。

 今後は身の振り方をさらに考えていかないと、『同行者』とやらがすぐに研究員に報告するだろう。

 炙り出してもいいとは思ったが、当然のことながら煙はない方が無害だからなあ。


 スピードをやや緩めながら、天井に足をつき、床へ直下。

 とある動物のように体勢を変え、綺麗な着地とはいかなかずとも、風の魔法で威力を和らげて尻餅をついた。



 ―― 平坦な場所ならだいぶ慣れたな。


「そ、う、ですね。木とかは、まだ駄目ですけど」


 ―― どっか練習場所がないとな。



 息を切らしながら律儀に返事をするあたり、ちょっと不器用だなこいつ。

 適当に返しゃいいのに。

 とか声をかけてる側が言うのも変か。

 動き回るのが終わって気が抜けたのか、≪玩具箱≫も霧散する。

 飾り気のない部屋が姿を現す。

 床に座りこんだ弟子は辺りを見回し、「なんか、変な感じ」と呟く。今日引っ越してばっかだしな。



 ―― 今日、どれくらいもらったんだ?


「あ、そうだった」



 休憩がてら、学校に着いたときに王子サマからもらったものについての話題を振る。

 弟子が正式に金を稼ぐ手段として、機能訓練を提示された。

 弟子はそれを受けたわけだが、その後さっそく、「最初の報酬」だと渡されていた。

 茶色い封筒をひっくり返し、三種類の紙切れが出てくる。



「お金と、手紙?」



 質の良い紙と、普通の紙。

 差出人は王子サマと、道具を提供されていた負傷兵。

 弟子に来た手紙なので、さすがに見るのは控える。



 ―― なんて?


「殿下は、「この金額は妥当なものだから」と。ガーラさんからは「道具ありがとう、頑張ります」と」


 ―― ほー。



 声が、震えているか……?

 ≪嘘つきの鏡≫を使っていなかったことを少し後悔。

 今の私様からじゃあ弟子の顔は見れないし。

 何か、こいつの感情の表出に変化があったかもしれないのに。



 ―― ま、よかったじゃねーの。誰かの願いを叶えて、金にもなって。


「ははは……」



 今は何も思っているかわかるぞ。

 「身も蓋もない」だろ。

 答え合わせはしないけど。



 ―― 今日はさっさと終えるかあ。このままいつものやるぞ。


「え、ああはい」


 ―― と言っても言うことは一つだけなんだが。今後は私様は基本出ないからな。緊急時以外は。


「出る・出ないのはお任せしますが、緊急時はない方が良いですけどね」


 ―― そうもいかんだろーな。


「ですよね……」



 学校生活を送るのは弟子なので、私様が出ないのは当然だが。

 身の危険がないとは言い切れないので、その時は弟子の助けになってやるつもりではいる。

 研究対象にちょっかい出されるのは本当に迷惑だからな。



「なるべく頑張ります」


 ―― がんばれー。



 気にしすぎ、気に追いすぎの弟子だから、助けを求めることはいつになるやら。

 幸い、私様の存在は向こう側には知られてはいないだろう。

 もしもの時は私様が勝手に体を動かすこともできる。

 最悪の事態にはならないだろう。

 ギルドで最高位の称号を与えられた私様だ。

 早々、ピンチなんて気はしない。






 ―――――……

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