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第75話 職場紹介

 メイドさんがお昼ご飯を持ってきてくれて、殿下の部屋でいただくことになった。

 実は殿下と二人で食べるのは初めてだったりする。

 汁物やパンらしきものや、食事に関しては近しいところがある。

 だからか、食も進むし、美味しいと話も弾む。

 学校の様子や寮生活、アオイさんたちの話などを聞いて、あっという間に食べ終えた。

 殿下は公務に、私は部屋に戻ろうとして。

 呼び止められた。



「そうだ、人手が欲しいと頼まれていたんだが、行ってみるか?」



 といって渡されたのは、一枚の用紙。

 内容は、単純作業のお手伝いが至急欲しいというもの。

 具体的な仕事内容はないが、賃金は支払われるようだ。

 王子様ってこういう募集に関することも請け負うのかと思いきや。

 募集をかけることの承認を、とのことらしい。

 つまり、まだ募集は出していない。

 紙を見つめながら、脳裏にはあの人が。



「……あの」

「ん?」

「この件、一人教えたい人がいるんですが」

「知っている奴か?」

「はい」



 ぱちくりとした目に向かって考えを話す。

 言ってしまえばプレゼンをしているわけだが、即席で言葉だけで、というのは難しい。

 この世界にはあるのかないのかも定かではないものを語るので、どこをどういえば伝わるのかも同時に考えながらだからさらに難しい。

 しどろもどろになりながら話す間、殿下は相槌と頷きで返してくれる。



「その人が良ければというのと、私が上手いこと作れれば、になるんですが……」

「それでもいいと思うぞ。俺から部署の奴と本人には繋いでみる。本人と話すのはヒスイの役目な。それまでにヒスイは道具の準備を」

「わかりました。行ってきます」



 ソファーから勢いをつけて立ち上がり、挨拶もそこそこに部屋を出た。

 自室に戻り、設計図から作る。

 記憶の中のものでしかない。

 教科書ももちろん実物もない。

 だからこそ、より安全性に気を付けながら作らなければ……。






 ―――――






 入学の準備なんてそっちのけで、数日が経った。

 森に行ったり使えそうな道具を探してもらったり、いろいろな人に協力してもらいながらなんとか完成した。

 そしてそれを持って、今は殿下の部屋の前にいる。


 コンコン、コン。


 ……応答がない。

 入っていいかな。



「こんにちはー……」

「あ、こんにち……こんにちは!」



 こそこそと。

 不安交じりに入ってみたところ、誰かいた。

 ただし殿下の声ではない。

 と思って声のした方を見ると、知っている人だった。

 最後に会ったのは試験を受ける前だったか。



「おおおお久しぶりです」

「お久しぶりです。今日はヒスイさんからお話があると、殿下から伺ったのですが」

「そうなんです。今殿下は奥に」

「お、来てたか」

「あ、お邪魔してます」



 上着の片側の袖を垂らし、扉を開けてすぐ横に立っていたその人は、見覚えのある笑顔で迎えてくれた。

 名前はガーラさん。私が機能訓練を始めたとき、初期から参加してくれていた人。

 腕を怪我して神経断裂。

 利き腕である右の肘から先が思うように動かなくなってしまった人。

 私が試験を受ける前に機能訓練は卒業となり、それから会っていなかった。

 仕事を探しているのだと思っていたけれど、どうなのだろう。



「ガーラさん、来てくださってありがとうございます」

「いえ、そんな。最近は忙しくないので」

「今、お仕事は?」

「恥ずかしながら、まだ探しているところです。片手が動かないというだけで、こうも仕事が見つからないのかと……」



 明るく話してくれているけど、内心は辛いのだろう。

 敢えて暗くならないように話してくれているというのが、痛いほどわかる。

 ガーラさんの場合は利き手ということもあって、日常生活から不便が多いと思う。

 ご家族はいるそうだが、一日中ガーラさんについているわけにもいかないだろう。

 ずっと一緒にいてストレスに感じる場合も多いし。

 なにより、自分一人でできていたことができなくなった時の喪失感というのは、本人にしかわからない。



「ガーラさんに、これを試してほしくて、今日は来ていただきました」

「これ、は……なんですか」

「殿下、机を借りてもよろしいですか」

「好きに使ってくれ」



 殿下の机を使うことに多少の引け目はあったけど、実際の作業場所に合わせた方が良いかと思って、そうした。

 ガーラさんも当然のことながら「殿下の席に座ることはできない」と言っていたけど、そこは押した。

 そこで取り出したるは、腕と同じぐらいの長さを持つ棒。

 頂点となる先端から可動式の棒が地面と水平に伸びていて、その先にはさらにもう一本、少し垂らしたところでまた水平に短い棒が吊るされている。

 吊るされている棒の両端では、タオルの対角を一対ずつ固定している。



「これは『ポータブル スプリング バランサー』というものです」

「ぽーたる……?」



 机の端に万力で挟むようにして固定する。

 殿下の椅子に恐縮したガーラさんが座り、弛緩した右腕を確認して、バランサーの高さを調整する。



「このタオルの中に腕を通します」

「は、はい」



 調整までした後は、自分でできるかの確認も含め、ガーラさん自身にやってもらう。

 バランサーが可動式のため、動かない右手を支えながらタオルに通すのが少しやりにくそう。

 通すんじゃなくて巻きつけるようにするか。

 苦労しながらも通せた結果、目が見開かれる。

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