第71話 武器生成
魔力を込める方法もあると教えてくれたのはスグサさんだが。
迷ってばかりで一向に決められなさそうだったので、もう任せることにした。
適正なんてわからないし、得手不得手も、他を知らなければどうってことはない。
戦って勝つためと言うよりも、得意な状況に持っていくための物が欲しい。
それだけを念じて作ろう。
という気持ちでいる。
「そうか。やりかたはわかるか?」
「スグサさんが知っているそうです」
「実は俺、そのやり方をしている奴を知らないんだ」
「私もです」
実はマイナーなやり方らしい。
大体の人は作りたいものがあって、専門の鍛冶師に頼むのが一般的。
たまに面白半分で魔力を流して作る人もいるみたいだが、魔石器も安いものではないので、普通に考えれば大事に扱うようだ。
「運任せにしてすみません」
「いや、気にするな。考えて決めたことなんだから」
ということで、さっそくこの場で作ることにした。
殿下とカミルさんは見学したいとのことで、部屋の隅にいる。
全ての工程を使用者が魔力を込めながら行う必要があるため、準備は大体私がやることになった。
広めのテーブルを借りて、白い用紙に魔法陣を描く。
描き方は、魔力を指に通わせ、指で紙をなぞるだけ。
一見何も描かれていない用紙でも、実は陣が描かれている。
そして紙をテーブルの中央に、魔石器を紙の中央に置く。
―― あとは石に手を翳して、魔力を込めるだけ。
「……いきます」
石の上の掌を意識して、魔力を込める。
数秒の後、黒っぽい石の中心が灯り始めたと思ったら融け、形を成した。
「……ん?」
―― お。
「え、終わり?」
もっと光ったり、グニャグニャ形を変えたりすると思ってたのに。
思いの外シンプルだった。
掌をどけて見ると、確かに武器にはなるが、大丈夫かなこれ。
実際、向きによっては掌で隠れる程度の大きさで、石と出来上がったものの体積はほとんどあっていない気しかしないのだが……。
鍛冶師が武器を作ってもこうなったのかな。
「それ……終わったのか?」
「終わったっぽいです」
寄ってきた殿下とカミルさんに、出来上がった武器らしきものを指でつまんで見せる。
ちりん、と高い綺麗な澄んだ音は、『武器』や『戦い』と言った言葉とは無縁な気しかしない。
「これは……」
「針……」
「と鈴……ですよね? 私の見間違いじゃないですよね?」
「間違いではないんじゃないか」
普段冗談を言わないカミルさんが言うなら、間違いではなさそうだ。
二十センチ弱程度で、ミシン針程度の太さの針。
その一方の端には小さめのたこ焼き程度の鈴がついている。
どちらも銀色一色だ。
鋭さだけ見れば立派な武器だが、光を反射する輝きや鈴の音色はどうも似つかわしくない。
「こんな武器、この世界にありますか?」
「針を使って戦う奴がいるかどうか、といったところか。騎士団にはいないだろ?」
「いませんね。ギルドの方がいる可能性はありますが」
「身近な相手ではないな」
この様子では二人とも針を使って戦ったことはなさそうだ。
と言うことは、ロタエさんやアオイさんも針を武器にしている様子はないということかな。
実はこっそり使ってたとか……はさすがにないかな。
魔法主体だろうし。
つまり、針を使った戦い方を誰かに教わるのは難しい、か。
―― ……ふ。
「え?」
「ん?」
―― ふっ、ぐ。
「え、え。どうしたんですか?」
「ヒスイ?」
「スグサ・ロッド殿ではないですか」
「あ、はい。スグサさんが、なんか……変」
苦しそう……? いや、なんかこれは。
―― ぶっ、っく……ぐふっ……!
「スグサ殿がどうかしたのか?」
「……なんか……」
きもちわるい……。
―― ふっ、あっはっはっはっは!!
「わあっ」
「どうした!?」
突然頭に大きな笑い声が響いて、意味はないのに耳を塞いで肩を揺らした。
なんか堪えているようだったが、笑いだったようだ。
脳内で大爆笑しているスグサさんに勘弁してくれと思いながら、耳から手を放す。
「すみません……。スグサさんが大笑いしてまして」
「は?」
「スグサ・ロッド殿が……?」
二人して顔が引きつってる。
まあ確かに、スグサさんが大爆笑って言った私も、なぜかよくないことが起こるんじゃないかと考えてしまった。
たぶん二人も同じだと思う。
爆笑していて聞こえるのかわからないが、聞いてみよう。
「スグサさん、どうしたんですか?」
―― あーっはぁ、ふは。いやなに、驚いたもんでな。
「驚いた?」
何に?
―― 持ってる針のことだがな、それの扱いについてならおそらく私様が一番よく知ってるぞ。
「知ってる?」
「え、なんだ、どういうことだ?」
「スグサさんが、この針のことを知っているそうです」
「スグサ殿が……。伝記では武器については不明となっていたが、まさか」
―― 私様が使っていた武器は、針だ。
なんということだ。