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第67話 挑発は面と向かって

 大分振り回されていると思う。

 けど慣れてきたので、驚きはしても慌てることは少なく……なったかなあ。

 代わってくれたのは木の太めの枝の上。

 比較的安定した場所を選んでくれたようだ。



 ―― 目を閉じて、空気の震えを知覚しろ。


「空気、ですか」


 ―― 風の属性を持ってる奴なら幾分やりやすいはずだ。



 言われたとおりに目を閉じて、知覚……目は閉じろと言われたので、触覚と聴覚を意識してみる。

 肌を撫で、鼓膜を震わす空気が、見えていないはずの遠くの景色を瞼の裏に映す。

 どれくらい離れているのか、私の方に一直線に向かってくるロタエさんが見えた。



「っ」


 ―― 見えたか。


「はい」


 ―― どんな顔してた?


「……言えません」


 ―― そうか。鬼の形相か。



 鬼だもんな、と。面白くないですよ。



 ―― じゃあ、行くか。まずは風の魔力を足裏に。



 また、言われたとおりに。足裏に風の魔力を集める。

 魔力は薄く均一にするのがコツらしい。

 厚すぎると威力が付きすぎてしまうのだとか。



 ―― 移動したい方向に向いて、あとは枝を蹴るだけ。



 目の前は木。枝がたくさん(ひし)めいていて、気を付けないと枝に突撃しそうだ。

 気持ち弱めに、ひとつ前の枝を飛び越えて、その先の枝に飛び乗るイメージで。

 蹴る。



「よっ……いしょおおおっ」


 ―― うっさ。



 跳ねれました。

 飛び越えてかつ飛び乗れたことには乗れたけど、乗った枝からずり落ちそうだった。

 なんとか幹に抱き着いて事なきを得たけど、これは怖い。



「あっぶなかった……」


 ―― ほら、そんなことやってるから。



 来てるぞ。

 と言われたときには目の端に光るものが見えていた。



「っあ」



 驚いて足を滑らせて、落ちた。



「いっ、……たくない?」



 立った状態で落ちて、立った状態で着地していた。

 頭の中から呆れたような声が聞こえるので、たぶんだけどスグサさんがやってくれたのかも。

 ありがとうございます。



「ヒスイさんに戻ったのですね」

「あ、はいっ」

「では、また十秒後に再開しましょう。もう少し逃げてください」



 木の上から見下げるロタエさんは息もあげておらず、余裕そう。

 普段から鍛えているんだろうなあ。

 私なんか緊張と運動で体力削って、肩で息してるのに。

 胸元から取り出した時計を見ながら継続を示されたけど、もう少しということなので何とか逃げ切ろうと思う。

 数えだしたのと同時に足裏に魔力を集め、地面を蹴る。

 いつもより、それこそ鬼ごっこが始まった時よりも早く移動できる。これすごい。

 枝を伝って逃げるよりも走りやすく、移動しやすい。

 このまま逃げ切れたらいいなとは思うけど。



 ―― いい感じだ。コントロールはだいぶ良くなったな。


「よか、た、ですけどっ」


 ―― 体力はこれからつけろ。これはそういう理由だろ。


「体力、づくり、が、目的?」


 ―― おそらくな。私様が焚きつけなきゃな


「スグサさんっ」


 ―― はっはっは!



 中の人にも恨みがましく思いながらでも、足の魔力を維持して逃げ続けているのだから、私は本当にコントロールが上手くなったと思う。

 森の奥へ奥へと、景色を楽しむ間もなく移動していく。

 差し込む光がオレンジ色になってきていてるから、もう夕刻だ。

 終わり時間を具体的に言われているわけではないけど、もう少し。



 ―― 来たぞ。



 振り返るが、視線の先には誰もいない。



 ―― ほぅら、きた。



 跳べ、と。

 咄嗟に斜め後方へ、魔法のおかげもあって人一人分は飛び上った。

 十秒があっという間だったのか、追いついたのがあっという間だったのか。

 目の前にいるのはまさしく『鬼』だ。いや違う違う。間違えた。

 私がいた場所の辺りには、一つにまとめた髪を(なび)かせて着地した、大鎌を持ったロタエさんがいる。

 スグサさんの一言がなければ、目の前に降りてきた人に驚いて尻もちをついていた。



「追いつきました」

「……追いつかれましたね」



 今の状態からロタエさんから逃げるのは無理だろうな、と諦めモード。

 逃げる気はありませんと両手を上げる。

 伝わったのかそもそもそのつもりか、ロタエさんも追う気はないようで、大鎌はぎゅんっと小さな石に戻った。



「お疲れさまでした」



 疲れました。本当に。

 大鎌があるのとないのとでこうも印象が変わるんだなぁと、いつものロタエさんに安心する。

 お互いに歩み寄って、一礼



「お疲れさまでした。スグサさんが突然参加してしまってすみません」

「いえ。想定内です。魔法の使い方を教わったようですね」



 保護者か、と突っ込まれたけど、予想通りだったようですよ。



「……あのー」

「なんでしょう」

「スグサさんが、伝えろって言っているんですが」

「はい、どうぞ」

「わかっていた割には挑発にも軽く乗ってたな、って」

「ああ」



 にっこり。



「乗っておかないと、ムキになってしまわれるかと思って」



 ……挑発は私を挟まないでもらおう。

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