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第63話 内偵は誰だ

 仮の採点結果もそうだけど、なんとなく気になることが聞こえた。



「スグサさんとアオイさんも編入だったんですか?」

「そうだよ。伝記によると、スグサ殿は編入したってわけではないけど、試験は受けたみたいだね。僕は家の手伝いで初めは学校に通えなかったんだよ」



 アオイさんの名前を他の人が呼んで初めて聞いたが、フルネームは『アオイ・ベイト』と言うらしい。

 名前と家名の間に貴族の証はない、ただの一般市民。



「勉強はしたかったけど、家のことも助けたかったからね。魔法や国学なんかは独学で頑張ったんだよ。努力の甲斐あって今は団長までなっちゃって、忙しいのなんのってね」



 明るく話をするけれど、その努力は並大抵のものではないはず。

 学業に集中できる環境のことは違う。

 家の手伝いの少しの空いた時間で、学校に通っている子たちの何倍、何十倍もの密度の勉強をしていたのだと思う。

 それこそ、私なんかよりも。

 教えてくれる人がいたのかはわからないけど、いてもいなくても、個人の努力が相当なくては今の地位にいることはできないだろう。

 そんな大変そうなことを、この人は目の前で、あっけらかんと易々と語っている。



「楽しかったね。色々なことを知れるのは」



 突然、ぽっと頭の中に言葉が浮かんだ。

 誰のかはわからないが、「自分のしていることに楽しみを見出すことが出来なければ、滅多に成功することはない」という言葉。

 この人が語るそれは、まさにこの言葉があうと思う。



「好きこそものの上手なれ、ですね」

「そうだね。僕は魔法が大好きだ」



 少年の様な笑顔はそれはもう眩しいものだ。


 コンコン、コン。


 いつものノック音が室内に響く。

 待ち合わせをしていた人物たちだ。



「はいはーい、どうぞー」

「失礼する」

「こんにちは。殿下、ロタエさん、カミルさん」



 殿下はまた休み期間に入っているので、お城で過ごすスタイルでマントを羽織っている。

 ロタエさんとカミルさんもいつも通り。

 ローブと動きやすそうな服。

 殿下は誕生日席の一人掛けソファー。

 アオイさんの隣にカミルさん、私の隣にロタエさんが座る。

 もはや定着したともいえる席順。



「まずはヒスイ。試験お疲れさん。どうだった?」

「ありがとうございます。採点してもらったところ、合格ラインは固そうです」

「優秀で何より」



 ニッとはにかみながら「わかってたけどな」と。少し照れる。



「アオイの方はどうだ」

「目星は付けてきましたよ」



 そう言って、懐から四つに折られた一枚のメモを取り出した。

 それには人の名前と特徴らしき言葉が書かれている。



「周囲と話をしなかったり、魔力が強そうだったり、単純に怪しそうだったり。気になった点と名前、特徴をまとめました」

「この中の誰かが、アイツの言う同行者なら話が早いんだが……」

「断言できるほどの根拠はありませんしね」

「警戒できるだけまだマシだな」



 私が試験を受けている間、アオイさんは保護者や子どもの観察をしていた。

 ベローズさんが言っていた『同行者』、元い『見張り』を見つけるため。

 もちろん見つかるとは思っていないが、ベローズさんに情報が行きにくいように用心するためだ。

 編入してくるのか、もともとの学校関係者なのか、大人なのか子どもなのか、人なのか、別なのか。

 真面目に報告しているので、ご婦人たちにもみくちゃにされていたことは黙っておく。



「合格を前提に動くとしよう。ヒスイ」

「はい」

「この紙に書かれている奴らの特徴と名前、覚えておいてくれ。科、クラスが同じなら、そいつの周りでは特に注意して、危ういことはしないように」

「わかりました」



 渡されたメモ用紙を受け取り、さらっと眺めてみる。

 男性も女性もいるようだ。

 しかしここに書かれているのは学生候補。

 つまり子どもだ。

 年端も行かない子どもが、国の研究に関わって密偵をさせられているなんて、考えたくはない。

 せっかく学校に通っているのに。



「試験も終わったし、俺たちが教えることも一段落ってとこだな」



 熱の入った雰囲気が殿下の一言で冷やされた。

 この話の続きは、合否が発表されて、正式に入学するとなってからだ。

 というか、じゃないと動けない。



「そうですねー。なんか名残惜しいなー」

「団長は通常業務に戻っても問題なさそうですね。魔法についてはスグサ様がいらっしゃいますし」

「いや! 僕が引き続きやるよ!」

「……「お前には無理だ」って言ってます」

「…………仕事つまんなーい」



 駄々をこねるアオイさんは学校に通う学生よりも幼く見える。

 それを慣れた手つきで落ち着かせるカミルさんは保護者だなあ。

 となると、殿下とロタエさんは兄と姉だろうか。

 ……いいなあ。



「ロタエも仕事に戻るんでしょ?」

「いえ。私は入学まで続けたいと思います」

「え、なんで?」

「実技がありますから」



 そうだった。

 そう言えば、ロタエさんは私に教えてくれる内容として、魔法と武術も担当してくれていたんだった。

 今までは魔法について教わることが多く、武術については軽くしか触れていない。

 体力づくりや柔軟程度だったのだが。

 そもそも、私に武術ができるのだろうかというところからなのだが。



「入学までの五十日間は、武術を実戦で行いたいと思います」



 ……急展開じゃないかな?

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