第61話 見直し 聞き直し 開き直り
筆記試験が終わった。
できたような、できてないような、不安。
自信はあるんだけど、試験はまだ終わってないから見直しができない。
お城に戻ったらすぐ解き直しをしないと落ち着かない。
自己採点は怖いけど、しないでいるのも落ち着かない。
後ろの席から送られてきたに自分の回答用紙を裏返しで乗せて、また前の人に渡す。
全員分が回収されたら指示通り、最初の部屋に戻ってきた。
一番扉側の席に座っていたので、先頭で戻ってきて訓練室①の扉を開けた。
ら。
「僕はっ、まだっ、一人でいたいんです!」
「んまぁ! そんなこと言わないでくださいまし! ぜひ私の娘と今度お会いになってくださいな!」
「いいえ、私の娘と是非!」
「僕から声かけますからっ!」
「今度お茶会を開くのでいらしてくださいませ!」
「うわあぁぁぁあっ」
囲まれていた。
訓練室の奥まで追いやられたアオイさんを、ドレスを着た奥様方が取り囲んでいる。
男性陣は遠巻きに集まって眺めているだけのようだ。
扉で立ち止まってしまっていたら、なんだなんだと後ろから覗き込む人に押され、室内に入り込んだ。
バランスを崩して転びかけたが、何とか耐える。
体を起こして視線を戻すと、目が合った。
おもちゃを見つけた犬のような目をしている。
「おかえりー! 今そっち行くねー!」
「っ」
室内全体の視線が、先頭にいる私に集まった。
ご婦人方からの目線は「あの子はいったい何なの」と睨まれているようで痛いし、男性陣からは恰好のせいか「なんだこの怪しい奴は」と疑いの目を向けられている。
体は硬直する。
見られたくなくて、足元を凝視する。
少し離れたところからアオイさんの声が近づいてくる。
早く来てほしい。ここにいれば来てくれる。
ここにいれば……。
「はぁっ、ごめんね。さ、行こう」
「っ、はい……」
抜け出るのと駆け足で来てくれたのとで少し息を上げながら、肩を抱えられて最初に座っていた椅子に戻った。
他の保護者の人たちも、自分たちの子どもが戻ってきたことに気付いてそれぞれ迎えているようだ。
室内はまた賑やかになる。
「試験はどうだった?」
「まあまあ、ですね。何とか全部埋めました」
「よかった。じゃああとは実技だ。もう安心だね」
「気が早すぎですよ」
緊張感をほぐしながら、休憩中は筆記試験の内容を振り返る。
試験中、正直な話、スグサさんに聞きたくなる問題もあった。
内側から「ほうほう」「ふーん」「なるほどなー」と聞こえ、そのおかげで聞きたくなる気持ちは落ち着いた。
天邪鬼だったんだな、私って。
対抗心もあってから、解答欄を埋めるための努力はいつも以上にできた気がする。
―――――……
解き直しもそこそこに、休憩の一時間はすぐに終わってしまった。
すでに何人かが実技試験を受けている。
呼ばれ方は申し込み順らしい。
だから位や筆記の結果は関係ないと、ヒイラギ先生が言っていた。
今、子が戻ってきた。
そして別の子が呼ばれ、部屋を出て行く。
その間に、小声で魔力量測定についてアオイさんとおさらいする。
「測定の仕方は、魔力を込めるだけなんですよね?」
「試験方法については確認したからそのはずだよ」
測定方法は場所により色々あるそうだが、学校ではで水晶の色で判別するとのこと。
明確な数字は出ないうえ、込める魔力によっては判定も操作できるというもの。
ほとんどの人は最大値を出そうとする。
私みたいな魔力が多すぎて少なく偽る人はそうそういない。
必要なときに明確な魔力量が欲しい場合は、別の手段を使うとのこと。
学生時は伸び盛りなのと、区別を付けないために大まかな色で見ているのだそうだ。
「私が目指すのは薄い黄色でしたよね」
「そうそう。普通より多めね。その方が便利だろうから」
色の種類は、下から黒、青、赤、黄、白、そしてまた黒。
水晶は透明だが、魔力を込めると下の色から順に変化していく。
だから私は、黄色になってから白へ変わる直前まで魔力を注げばいい。
うっかり入れすぎると即効で黒になると言われている。
むしろ割れるかもしれないらしい。
スグサさんの魔力すごい。
「できるかなぁ」
「ゆっくり注いでいけば変化も急じゃないから、大丈夫だよ」
「うーん……」
「気にしすぎ気にしすぎ! 的当ても忘れないようにね」
「あ、そうでした」
肩を叩かれながら、頭の中で的当ての文字が突然飛び出てきた。
魔力量測定も的当ても、結局どちらもコントロールだ。
そう考えたらどちらもやることは一緒。
うん。できる気がしてきた。
もう大半の生徒が呼び出され、戻ってきただろうか。
嬉しそうに両親に報告する子。
残念そうに肩を落とし、慰められている子。
自信満々に椅子にふんぞり返っている子。
そわそわと落ち着かない様子で、扉を何度も確認する子。
十人十色だ。
また一人、戻ってきた。
親の元へ描けて戻ったその後ろから、呼名係の先生が書類を見ながら名を読み上げる。
「ヒスイ……? ヒスイさん、試験に向かってください」
「っ、はい」
「がんばって」
また視線が集まるのを感じながら、かけてもらった声援で頭を埋め尽くす。
そうしないと緊張に持って行かれそうだったから。
扉を出て、聞こえた蔑称を聞き流しながら、扉を閉めた。