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第56話 備える『ヒスイ』

「だが、所長はヒスイが帰宅したとき、何も反応していなかったぞ」



 騎士団長の言うことはもっともだ。

 が。

 その理由もわかっている。



「一つ。ベローズは怪我人と接触していない。顔も知らなかったんだろう」

「なぜ言い切れるのですか」

「情報を与えないためだ。いくら催眠の魔法を強力にかけているとはいえ、可能性はできる限り潰しておくべきだろう。研究者は用心深いんだ」



 同業者だからわかる。

 だがまあ本当に、『覚えているかもしれない』なんて可能性はないに越したことはない。

 城に属する者が、危険を明記しない完全不備の依頼を出しただなんてな。

 しかもそれは私欲のためと言っても過言ではないのだから。



「そうは言っても、その可能性がないことも確認はするだろうな」

「というと……保護した後に」

「だろうな」



 城に到着。

 怪我人を引き渡し。

 夜だから見張りは付けつつも人気は減る中。

 ベローズが直接接触することはないだろうから、未だに謎の奴が介したかな。

 手紙はすでに私様が回収してしまったから、持っていないと判断したのか?

 テキトーな奴かもしれないな。



「とまあそんなところと踏んでいるがな」



 足を組み直す。

 たくさん話したから茶でも飲みたいところだが、あいにくそんなしゃれたものは今はないようだ。

 やれやれ。

 以降、手紙の処分は私様に任された。

 というか私様しかできないし。

 さらにベローズの監視、怪我人の保護、そして謎の人物の調査を行うことが決まり。

 あと弟子の学校生活準備も。

 城の人間が国民を危険にさらしたことを、王子サマとしては見過ごせるものではないだろう。

 これ以上ないほどに悔しそうな顔をしていた。

 しかし城で堂々と動けるという状況と、弟子のこともある。

 弟子の体に何かがあれば、診れるのはベローズしかいないと考えているのだろう。

 だから、ベローズを拘束したりすることは今はできない。

 今できることは、せめて損害が大きくならないよう、後の先をとることだ。






 ―――――……






 灰色の以下略。

 胡坐と正座で以下略。

 ≪嘘つきな鏡≫は今日も使ってる。

 魔法を使ったり討伐したり、暗躍されていることを知ったりだが、その点についてどう思っているかを聞いたのだが。



「まあ、そうですよね」



 とどこ吹く風。

 私様の方が表情が多く変化してしまう。

 違うそうじゃないんだ。



「お前、危機感とかねぇの?」

「ないことはないと思いますが……」

「お前の考えを二百文字程度で述べよ」

「小論文?」



 両手を膝に乗せて、背筋は伸ばして、目線を斜め上。

 頭の中で考えでもまとめているのだろう。黙って待ってみる。考えるときってどうしてそういう行動なんだろうな。



「えと。ベローズさんや狙ってきている人? についてなんですが」

「おう」

「がんばってるんだなーって」

「…………えー……」



 十文字……!



「ベローズさんが私……『五番』に執着するのは、それだけ大きな研究だったからなんだと思います。お爺さんの代から続けてきた研究を達成したんですから、当然かなと」

「ああ……まあ、悲願の達成だろうな」

「なので納得はしてます。少し困りますけど」

「少しで済ませるのか」



 こいつちょっとやばいんじゃないの?

 へらへらしていればもうちょっと心配できるんだが、何分こいつは通常運転の真顔だ。

 強がりを言っている様でもないし、むしろ至極真面目に言っているように見えてしまう。

 長所としては警戒心がない所か。

 アイツは人形と言っているのだし、怖がったり警戒したりすれば違和感を持つだろう。

 今ぐらい平然としている方が、向こうの動きを調べるうえではいいかもな。

 向こうも警戒心を抱きにくいわけだし。

 んーーー。

 優先事項は向こうの状況を知ることだ。

 後の先をとるためには今のままで言ってもらうか。



「まあいいや」



 そういう奴なんだ。

 弟子のことを知りたかったのだから矯正する必要はなし。



「私からもいいですか?」

「おう。なんだ?」

「ウーとロロは冬眠しないんですか?」

「ん? 言ってなかったっけ?」



 ウーとロロはウロロスだが、違う性質を持っている。

 特異体質ってやつだ。それも原因があるものなのだが、詳細は省く。

 ちびどもも冬になれば冬眠する。

 私様がいない間に眠っていたのはそれのせいだ。

 だがあいつらは氷じゃなくて石の中にいただろ。

 それがミソなんだ。

 あの石は私様が与えたものだ。

 保温の魔法が込められている。

 だからあいつらは冬の間でも冬眠することなく過ごせる。

 食事も飼い主である私様が与えていたしな。

 ちなみに特異体質である所以は、夏になると溶ける。

 これは普通のウロロスにはない特徴だ。

 溶けた液体をまとめておけばいずれ戻る。



「じゃああの石を身につけておけば大丈夫なんですね?」

「そういうことだ」

「わかりました。納得しました」

「じゃあ今後のことを話すぞ」

「はい」



 今後のこと。学校のことだ。

 雪山で使った魔法は学生レベルとしては行き過ぎていた。

 なのでこれからは通常の魔法を練習しつつも、一般学生レベルを知ることも必要だ。

 やることが増えた。

 コントロールの練習にもなるが、ぶっ放すよりは確実に面倒になる。

 がんばれ。



「あと二月後ぐらいか」

「百日程度ですね」



 四年生として編入し、城を出て寮に入ることが改めて決まった。

 城から離れることにはなるが、学校の方が人目も多いしいい面もあるだろう。

 だが、弟子が担当している負傷兵の訓練をするために数日に一回は城に戻る。

 これはアイツからの提案だ。

 十中八九、鉢合わせたり城から離れられないようにするためだろう。

 足元見やがったな。



「いろいろとやることも増えて忙しくなっただろうが、目標は三十日間で一般程度のレベルを自在に操ること」

「三十って、ペースとしては早い気がしますが……」

「間に合わなくなるだろ」

「何にですか?」

「編入試験。え、受けるんだろ?」



 初めての表情変化は、口をぽかんと開けた阿呆面だった。






 ―――――……

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