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第40話 使用上の注意

 水柱は一分も保たず、次第に高さが落ちていく。

 打ち上げられた白髪(シオン)はどこに行った。



「っはぁ、……っ、どうだっ!」



 青髪(ロア)は息も絶え絶え。渾身の一撃だったようだ。

 水柱は尽きたのに、白髪(シオン)の姿がない。

 勝利宣言をしたいのか、青髪(ロア)は辺りを見回し、白髪(シオン)を探している。



「……? どこに……」



 下の方には青髪(ロア)の姿しか見えない。

 水柱の分の水が一体に広まって、歩いたら水音がする。

 焦って体を四方に向きを変える青髪(ロア)の水音しか聞こえない。

 となると。



「……ほほう」



 いた。



(イズ)中級魔法(フィフォ)! ≪隔絶された水槽≫!」



 白髪(シオン)の声が高い位置から響き渡る。

 水平にしか探していなかった青髪(ロア)は声の出所に気を取られ、まんまと魔法にかかった。

 ≪隔絶された水槽≫は水の拘束の魔法。

 水の四角い牢に閉じ込めるもの。

『隔絶』と名がついているだけあって、外気と遮断されるのが特徴だ。

 中級ゆえに使える人間は比較的多い。

 消費魔力も少ない。敵を弱らせるのにも使える。

 だからこそ、使用には注意が必要な魔法だ。



「……っ!?」



 決まったと思っていた作戦をやり過ごされ、反撃を受ける。

 さらに囚われて反撃不可能。

 水槽の中の青髪(ロア)は空気を吐き出しながら顔を歪める。

 大事なことだが二度は言わん。

 必要なことを話す。

 必要だから話す。

 私様が話すことはすべて必要な情報だ。

 殿下が立ち上がる。

 後ろから男教師の声が響く。



「そこまで!」



 声が響いたと同時に一陣の風が吹く。


 ぱしゃん


 水槽が、風に切られて形を崩す。

 水槽から解放された青髪(ロア)は這いつくばりながら体内に入った水を吐き出した。

 後ろから靴音が聞こえ、スピードを付けたその体はどこぞの少女の様に手摺を飛び越えた。



「お前らは加減ってのを知らねぇのか!!」



 めっちゃ叫んでる。

 こりゃお仕置きコースだな。

 王子サマが風の魔法を使わなければ、青髪(ロア)は窒息の危険性があった。

 王族の子どもが貴族の子どもを殺すなんてことはあってはならない。

 だからこそ王子サマは問答無用で水槽を崩したし、男教師も即座に声をあげた。


 もっと言えば。

 青髪(ロア)の水柱も今回みたいな決闘もとい模擬戦としてみれば幾らか威力をつけすぎだとは思ったが。

 学生同士の戦いで上級というのも度が行き過ぎてるんじゃないのか?

 何より貴族が王族をという事態になることが特に悪い。

 まあ人が人を殺すこと事態良くないんだが。

 そしてそれらが今ここで起こってしまった場合、監督者である教師にも責任が行く。

 青髪(ロア)が上級を使った時点で止めなかったと言うことは、白髪(シオン)が回避していることに気付いていたのだろう。

 だがその後の白髪(シオン)の魔法はだめだな。

 ありゃ止めなきゃ死ぬ。



「俺がどうなってもいいのか!」



 人質に使うような言葉を自分に使ってるやつは初めて見た。

 吹いた。

 青髪(ロア)には威力、白髪(シオン)には使い方についてきっちり指導し、最後は保身。

 あいつ面白いな。



 白髪(シオン)の魔法を解くために立ち上がってからそのままだった王子サマも、男教師の叫びを聞いたせいか、脱力したように座り込んだ。



「弟王子はやらかし王子ですか?」

「後先考えないところを直せとは言っているんだが……」



 日頃から言われている内容らしい。

 まだまだガキだな。弟王子。

 周囲に人がいなくなったところで、聞きたいことを聞いておこう。



 弟子。魔法は何ができるようになった。


 ――― 中級魔法を属性文で発動できるところまでです。


 詠唱はなしか。上級は?


 ――― 上級は詠唱ありで練習中です。風と闇はできます。



 ふむ。

 青髪(ロア)のレベルが平均でどれくらいかにもよるが、少なくとも弟子は青髪(ロア)よりも上だな。



「王子サマ」

「何か」

「喧嘩中の二人は学年で言うと平均と比べてどのレベルですか」



 青髪(ロア)は貴族だから平均より上の可能性がある。

 さらには成績も白髪(シオン)に対して自慢気だった。

 それを考慮するともしかしたら学年の中でも上位に入ると予想する。



「二人ともまだ基本を習っている段階ですが、二人とも優秀な部類です。魔法の成績だけで言うならシオンよりもロアの方が上です」



 そこは想定通り。



「そしてそのロアは、学年トップではないようですが優秀な方と聞いています」

「ちなみに誰から?」

「……ウ・ドロー家当主、ロアの父親です」



 息子自慢をする貴族は誇張せず、良い事実をこれでもかと自慢したがる風潮があるから、まあ親馬鹿評価ではないだろう。

 王子サマ相手に言うってことは媚び売って将来的には側近とか考えてたりしてな。



「あいつらの学年で魔法のレベルについては?」

「中級の魔法が発動できれば普通、属性文のみでなら優秀でしょう。四年生から発展的な内容になるので、しっかり学校で習うのはまだ先です」



 なるほど。

 やはり青髪(ロア)は優秀な方のようだ。

 上級魔法を発動でき、作戦通りに行えたのだから。

 弟王子もまあ優秀なようで。

 弟子は青髪(ロア)よりも上位に行きそうだ。

 入学までを考えればトップも夢じゃない。

 しかしそれでは目立ってしまう。

 ただでさえ編入生は目立つ。

 弟子の立場を考えれば誤魔化す必要があるか。



「……落ちこぼれとして入学させるのもありですかね」

「いや、もう遅いでしょう」



 だよなー。

 客人として紹介しちゃってるし。

 むしろ悪目立ちするよなー。

 となるとやっぱ、魔法の出力をコントロールして程々の立ち位置を気付くしかないか。

 ま、いっか。

 入学するのは弟子だし。

 魔法のコントロールで頑張ってもらおう。

 目立ちだがり屋ではなさそうだし、慎ましく過ごせるのなら弟子にとっても都合がいいだろう。



「じゃ。私様はそろそろ」

「ああ。またいつか」



 にやっと不安にさせてしまう笑みであいさつ代わりとして。

 余計な人の眼がないうちに弟子と交代としよう。






 ―――――……

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