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第3話 どうやら死体に生まれ変わったらしい

 温まった体に、シンプルなワンピースを着る。

 さっきまでのローブ一枚の服装と比べるととても人らしい気がする。



「おかえり。温まったかい?」



 シャワールームから出るとアオイさんが待っていた。

 洗ってくれているメイドさんたちの表情はとても硬かったのに対し、アオイさんは友好的に接してくれる。



「はい」

「よかった。それじゃあ、時間まで何をしようか」



 すぐに謁見なのかと思ったが、そうではないらしい。

 王様と会うというからそれなりに緊張していたが、少し心の準備ができそうだ。

 と思っていると、隣の部屋から大きい声がする。

 ここから、私の今の状況を特に知る人物と対面することになる。



「どうしたんだろうね」



 私たちが話をしていた部屋だ。

 アオイさんは私にここにいるように言って、1人で続き部屋の扉に向かう。

 だがアオイさんが開ける前に扉が開いた。



「ここにいたか! 返してもらうぞ!」



 メガネをかけてボサボサの白髪を後ろで一つにまとめた白衣を着た人物が、鬼気迫る顔で私に寄って来た。

 だが間にいたアオイさんに手を掴まれて歩みが止まる。



「ちょっと待ちなよ。なんのつもり?」

「魔術師団長か。手を放せ。貴様こそ私たちの研究成果に何してくれているんだ!」



 研究成果とは言わずもがな、私のことだ。

 二人は睨み合いっていて、特にアオイさんは今までの優しそうな雰囲気ではなくなっていた。

 山なりに描かれていた眉が眉間にしわを作り、温厚そうな瞳は鋭く細められている。



「ちょうどいいから今この場で聞かせてよ。君たちはその子をどうしたの?」

「どうしただと? 何が言いたいんだ」

「研究成果だと言ったね? だけどその子は人間のようにしか見えない。以前まではまさしく人形のようだったのに。一体何をしていたんだい?」

「なんだそんなことか」



 呆れた顔をして溜息を吐く白衣の男。

 腕は掴まれているままだからこちらに来ることはなさそうだが、薬品だろうか、嗅ぎなれないキツイ臭いがしてくる。

 白衣の男はこちらを見て自信満々に笑みを浮かべ、高らかに叫ぶ。



「この『五番』やその他の番号たちはなぁ! 私たちの研究である『英雄の力の再現』を実現させたんだよ!」

「……は、あ?」




 『英雄の力の再現』。

 これが、私がこの世界に来ることになったきっかけである。



「わからないか。これだから頭の足りないやつは」



 肩をすくめ、やれやれと小馬鹿にしたような仕草をとっている。

 しかしその顔は笑顔で、面倒くさそうにしていても舌はよく回っていた。



「『英雄の力の再現』とはなぁ、今は亡き優れた者たちの体に魔術を施し、その力を行使することを可能にしたんだ」

「っ、お前、死んだ人間に何てことをしているんだ……!」



 続き部屋からカミルさんが顔を出す。



「騎士団長も興味があるのかね? いいだろう、聞かせてやる」



 白衣の男は続ける。



「そうだな。『五番』について教えてやろう。こいつはかつてすべての魔術を極めたとされるスグサ・ロッドの再現だ! こいつの戦時中の魔術はすさまじかっただろう。魔術師団長は実際に目の当たりにしたのだろう? 『五番』はその力を私たちの意のままにするのだ!」



 この時、この研究所長・ベローズさんは「私たちの意のまま」なのだとはっきり言った。

 つまりは私は『殺戮人形』でありながら『操り人形』だったのだろう。


 自分に酔いながら話す男はひどく上機嫌だ。

 私のことを語ってくれているだろうに、当の私はやけに落ち着いていたと思う。

 夢心地、他人事、現実逃避というか、やはりどこか、信じられない。



「じゃあ」



 白衣の男がこちらを見る。



「私は、死んだ人間なの?」



 ふっ、と白衣の男が笑い、



「人間? お前は作られたんだ、『五番』。死んだ人間に意識を定着させただけの人工物だ」



 ジンコウブツ。


 という言葉はやけに頭に残った。

 今でもベローズさんの表情も、言い方も、耳に残っている。

 その時と今の感情を表現しろと言われると難しいので、何を思っているのかは自分でも正直わからない。

 でもやはり、しっかりと覚えているぐらいは衝撃的な言葉だったのだと思う。



「まあ体は確かに人間のものだがな。しかしそれも死んだ人間の体。生者の者ではない。そんなもの、人間とは言うまいよ」



 白衣の男は饒舌に語る。

 それを一応は耳を働かせて、どうにか脳で意味を理解していた、と思う。

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