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第36話 学校散策

 教室、実験室、多目的室、更衣室、体育館、音楽室、調理室、木工室。

 異世界の学校だが、普通科がある分、私の知っている学校と同じ部分も多々あった。

 魔術科に関してはクラス人数が少ないが、普通科は多い。

 武術科は魔術科と同じぐらい。

 そのため学校としての規模は大きく、想像をはるかに上回った。



「随分広いですね。迷いそう」

「国の内外から同じ年の奴らが集まるからな」



 各国には学校が一つずつしかなく、その分人数も多くなるそうだ。

 校舎は科によってわけられている。

 魔術科や武術科にしかない教室があれば、普通科の校舎にしかない教室もあるようで、場合によっては移動に時間を要するから注意が必要だと言われた。

 授業に遅れるととんでもない罰があるのだそう。

 経験者は語る。

 廊下のど真ん中で「よしっ」と意気込んだ声を上げて、目の前の殿下が振り返る。



「校内はこんなもんか。何か気になっていることはあるか」

「殿下は寮なんですよね。寮はどちらにあるんですか?」

「寮か。あっちの方角だな」



 廊下の窓を開け、長い腕と指を伸ばす。

 方角としては城と反対側に位置し、おそらく洋館のような雰囲気がする建物がそれだろう。

 学校が広すぎて距離があるように見えるが、場所としては隣接している。



「あっちは学年別だ。中で女子寮と男子寮に分かれている」

「寮に入る人は多いんですか?」

「多い。自宅から通う奴はほとんどいないな。俺はともかく、これだけ近ければ寮を選ぶだろう」



 意地の悪そうな顔で、どこか皮肉めいたことを言っている。

 以前、殿下は「お城から出たいから」と言っていたから、距離を理由にしている人からしたら殿下が寮にいる意味は分からないのだろう。

 実際、寮とお城も十分近かったし。



「寮はさすがに人が多いから、今日は案内してやれないな」

「大丈夫です。学校だけでもすごく満足してます」

「そうか」



 今度はすっきりした顔で笑った。

 殿下は表情豊かだなあ。

 学校を案内しきったところでお開きかと思いきや、最後に連れていきたいところがあるとのこと。

 黙ってついて行けば、そこは『訓練場②』と書かれたプレートがかけられた扉。

 まさか実技かと驚いて立ち止まったところで殿下が振り向く。



「そろそろ体を動かしたいかと思ってな」



 どこかで聞いたことがあるようなセリフを、どこかで見たことがあるような意地悪な笑みで言ってのけた。

 心の準備ができてませんよ……。



「もう一度言ってみろ!!」



 殿下が扉のノブに手をかけたところで、肩を竦めるほどの声が響き渡った。

 別の理由で脱力してたところに大声なんて聞いたから体が思いっきり反応してしまった。

 殿下には「大丈夫か?」なんて心配されてしまったので、慌てて取り繕う。



「だ、大丈夫ですっ。何があったんでしょう」

「①の方からだったな」



 訓練室は廊下を挟んで両サイドに位置しており、私たちが入ろうとした訓練室②の向かい側が、声のした訓練室①だ。

 扉が閉められているため中の様子はわからず、しばし扉を見つめる。

 さっきまでの大きい声はしなかったが、何か話している声が聞こえ、扉が開かれた。



「私、先生呼んでくるから……ってあれ! 兄殿下!」



 薄紫色の、ウェーブのかかったショートヘアをした少女が出てきて、こちら……正しくは殿下を見て、驚きの声を上げる。

 紺地に白のライン、膝までのプリーツスカートを着て、首元には赤いネクタイ。

 私はなるほど女子生徒の制服はこんな感じなのか、とやや場違いなことを考えていた。

 殿下を見上げれば、知り合いが出てきて少し驚いたようだ。



「ライラか。何かあっ」

「ご無沙汰してます! すみません、先生を呼びにいかないとっ」



 ぴゅーっと走り抜けて行った、ライラと呼ばれた少女。

 事情を聴こうとした殿下の声を遮って行ってしまったから、そそっかしいタイプなのかもしれない。

 殿下はぼそっと「……まあいいか」と。

 その一言で終わらせられるほど、殿下と見知った中なのか寛容なのか……。

 少女の姿が見えなくなって、殿下は気を取り直して訓練室②の扉に手をかける。



「開けるんですか?」

「今の少女……ライラがいたということは、おそらくは俺の知っている顔がいる、と思う」



 不確かな内容だが、どこか確信があるようだ。

 殿下が良いのなら私は構わないので、それ以上は口を挟まなかった。

 そして、扉が開けられる。



「もう二度とそんなこと言えないようにしてやる!」

「どうぞやってみてたらいいじゃないですか! 成績は僕の方が上ですけどね!」

「座学での成績なんか、実技であてになるものか!」



 扉を開けた先は言うなれば観客席。目の前に通路がまっすぐ伸び、左方向には下がり傾斜で座席が何列か。

 そして座席よりも少し下がった位置に、広いスペースがある。

 そこにはお互いに向けて叫びあう、少年たちが幾人か。



「やっぱり」

「お知合いですか?」

「まあな。双方言い合っている奴らはわかる」

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