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第27話 痛恨で会心の一撃

 ……うん、私様は(・・・)満足したし、そういうことにしてしまおう。



「一発入れられたな」

「え」



 確か、王子サマ側の勝利条件は『一発入れるか拘束』としたはずだ。

 服しか破れていないが、薄皮一枚ぐらいは切れてるかも?

 いや、切れてる切れてる。

 あーんいたーい。



「……いやいやいやいや! さすがにそれは違うと思うが!?」

「えー? 見えてないだけで傷ありますよー? ほら、私様の柔肌に赤い筋が……」

「見えん」

「心の目で見てください」



 まあ納得できないわな。

 ならもう致し方あるまい。



「満足した」

「は!?」



 正直に言うしかねぇわな。うん。

 実際、女魔術師には驚かされたし、連携も見れたし、魔法のレベルもある程度わかった。

 騎士サマはもちろんだが剣が主体で、魔法はそこまで使えないのか使う気がないのか。

 王子サマは補助的に使っていたし、これから方針が決まってくるだろう。

 私様からの視点ではどうしても魔術師の魔法に集中してしまうのだが、魔術師団は上級魔法は詠唱せず十分な威力を出せている。

 この二人の役職はまだ確認をとっていないが、団長格だとしたら十分か、少し物足りない。

 本気ではない可能性も十分に考えられるから、まあこんなもんか、というのが本音の感想。

 ヒスイの今後のことを考えたら、こいつら程度の魔法は余裕で扱えるようになってもらわなくてはならないな。



「勝者、おーじさまー!」

「はぁ!?」



 納得のいっていない抗議の声をギャーギャーとあげているが、知らん。

 私様はもう満足だし、なんなら一発魔法で黙らせてもいいんだが。

 王子サマだしなぁ。

 めんど。

 耳元まで近づいてきて「納得いかない」だの「まだやれるだろう」と言われて騒々しいことだ。



「魔法石二つにしとくから」

「そっ……れは嬉しいが!」



 素直だな。

 騒ぐのは終えてブツブツと独り言を言い始めた。

 もうあの王子サマは置いておこう。

 赤髪は痺れが取れたようだが、寝そべって両手で頬杖をついている。

 微笑ましそうに見るな。

 騎士サマは……あれ、蔓斬って抜け出してた。

 助太刀しようとしたタイミングで終わらせちゃったか。

 腰の鞘に剣を戻していた。

 肩をぐるぐる回したり、前屈したり……うん、体は問題なさそうだな。



「みなさんどーもどーも。ご協力ありがとねー」

「殿下、お怪我は」

「ああ……大丈夫だ……アオイは?」

「僕も大丈夫でーす」



 主君である王子サマを中心に集まってきた。

 私様は服が少々破けただけだが、騎士サマは土がついていたり頭に葉っぱが乗っている。

 赤髪は≪伝雷≫のせいで全身ボロボロだ。

 王子サマは汚れてはいないものの一番疲れて見える。

 勝負は負けたのに見た目だけなら勝ったような感じだ。



「お疲れさまでした」



 女魔術師もきた。

 この人は水と土で服が少し汚れただけか。



「もう十分なのですか?」



 金色に輝く瞳が妖しい光を宿して問いかける。

 まるで探られている感覚さえ感じる眼光。

 この充足感の問われ方は、「動けたか」ではなく「必要な物は揃ったか」の意だ。

 そしてはこれは思い込みでも錯覚ではなく、確信。

 こいつは、もしくはこいつらは、気付いている。



「……あぁ。十分だ」



 こいつらがヒスイにこの世界のことを教えている。

 私様も協力してやろう。



「私様が直々に、ヒスイに教えこんでやる」



 私様の体のこと、大きすぎる魔力も、使い方も、オリジナルの魔法についても。

 いつか来る戦いの日までに、叩き込んでやる。

 これからのこと。

 さらには今の戦いを思い出し。

 頬が緩み、ずっと頭の中にあって温めていた一言を言い放つ。



「それにしても、王子サマの剣は良かったですね。まさに『でんか』の宝刀!」






 ―――――……






「てことになったぞ」

「はい……よろしくお願いします」



 意識の中で、また胡座と正座で膝を向かい合わせ、ヒスイと話す。

 王子サマたちとの戯れが終わって、結界魔法を解いたらオレンジ色の空が部屋の中を照らしていた。

 まさかこんな時間まで私様に付き合わされるとは思わなかったのだろう。

 王子サマや赤髪たちはウーとロロについての報告に係る書類作成などがあるとのことで、慌ただしく部屋を後にした。

 ウーとロロはその後も寝続けている。

 結界を張っていたとはいえ、遊んでいる間も起きなかったのは魔物として大丈夫なのか疑問だが。

 起きるまでしばらくかかるかな。

 今は休息と夕飯までの暇潰しと事後報告を兼ねて、また意識下でヒスイと話している最中だ。



「まさかいきなり戦いになるとは思いませんでしたよ」

「ははっ! さすがに急すぎたかもな。身近にいるだろうあいつらの力を確認したかったのもあるが、私様が体をどこまで扱えるのか確認したかったもんでな」



 魔法を使って確認できる機会なんて早々ないだろうし、ほぼほぼ強制的に協力してもらった。

 少しばかりは悪いと思っているが、プレゼントも付けたし、許してくれている、はずだ。



「大きな怪我がなくてよかったです」

「私様が? それともあいつらが?」

「みんな、です」

「……お前はどう思ったんだ。私様が戦ってて」



 今のこの体はお前の物でもあるんだぞ。

 そういう意味も込めて、試すように聞いてみた。


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