第22話 お膳立て
周囲は真っ白に加えて赤や青や黄色など、まるで子どもの落書きのような模様に様変わり。
模様は波打つように動き、表情を変える。
見ていても少しの間は楽しめる。
色は属性を表しており、魔法が当たれば霧散した魔力が吸収される仕様だ。
今みたいに、本来戦えない所で戦う場合に最適な魔法。
「!?」
突然様子が変われば驚くよな。
座っていた王子サマと女魔術師は景色が変わった瞬間に立ち上がる。
ソファーは二人が座っていたので空間に組み込んだ。
休憩するときに座りたいし。
机の類は使わないから置いてきた。
満足気に頷いて、それを黙って見つめる巻き込まれた人らは。
私様が使った魔法だと理解すれば、私様を見る目を恨みがましい目に変える。
「……スグサ殿。さすがに急すぎるぞ」
「すみませんて」
説明がめんどくさかったのと、反対意見は聞かないつもりだったから。
言いはしなかったが、皆そうだと察したらしい。
私様のことを理解してくださって何よりだ。
三者……いや、四者四様の呆れ顔やら困り顔を披露し、王子サマの周りに集合する。
対応を論じるようだ。
ソファー側で話し合いをしている間、私様はウーとロロをクッションに乗せたまま、起こさないようにそっと持ち上げて隅に寄せ、物音を遮断する魔法をかける。
「受けるしかないですね。幸い敵意はない方ですし」
「この魔法を解くというのは」
「僕とロタエでやっても無理でしょうね」
「カミル団長が斬るというのは?」
「やってみるか?」
「やらんでよいわ」
え、何。
女魔術師と騎士サマがボケ担当なの?
意外過ぎるんだけど。
ボケは置いといて、体を動かすのを手伝ってはくれるようだ。
無理にお誘いしたわけだし、謝罪の意を込めてこちらから一つ提案するか。
食いつくかはわからんが、ないよりはいいだろう。
「一つ提案しよう」
「なんだ?」
「お相手いただいた方には、私様特製の魔法石をプレゼント、ってどうですかね?」
魔法石はその名の通り、魔法を込めた石。
持ち主の魔力や力量に関わらず、込めたものの魔法が使える。
魔力の弱い生き物も使える便利道具だ。
石は用意してもらう必要があるが、リクエストがあれば指定の魔法を込めよう。
ここまで提案して。
らしからぬ悪い顔の王子サマ。
「それはなかなか、高級な餌だな」
やる気になってくれて何より。
王子サマにつられて私様もニヤリと口角が上がる。
「さて、では早速始めよう。誰からやる?」
私様としては複数でもいいが、さてどうでるか。複数人についての質問はなかったが。
互いを見ながら相談……とはいかなかったようだ。
「私に行かせてください」
またも意外や意外。
率先して主張したのは女魔術師だった。
こういうのは遊びだと切り捨てて外野を決め込むタイプだと思っていた。
まさか先陣を切ってくるとは。
女魔術師は男三人を無視して私様の正面に立つ。
何か言いたげにする王子サマだが、その横に立つ赤髪が王子サマの肩に手を置き、首を振っている。
まるで「言っても無駄です」とでも言っているようだ。
「ロタエはああ見えて好戦的だし負けず嫌いですから」
「どこでそんな対抗心が……」
「ほら、結界越えの転移ですよ」
「あ、あぁ……」
「ちなみに、手助けも無駄ですよ、きっと。むしろ攻撃されます」
問題児ってわけではなさそうだが、身に覚えがありそうな言い草だ。
こちらとしては誰でも何人でも構わない。むしろ話が早くて助かる。
というわけで、ゴングを鳴らす準備としよう。
「よろしくな。ハンデはどうする?」
「こちらこそよろしくお願い致します」
対戦前とは思えない、丁寧な挨拶を交わして。
ルールは特に決めてないからすり合わせなくてはな。
さり気なくハンデの提案をしたが、流されたか?
「ハンデを頂けるのでしたら、武器の使用は許可していただけますか?」
流されてなかった。
半分煽りも入れていたのだが、意に介してもいないのか。
でもこいつは意外性ありそうだからなあ。
ポーカーフェイスだし。
実はキレてたりして。
「いいぞ。私様は魔法だけな。そうだな。属性も一つに絞るか」
「では土属性でお願いできますか?」
「お、いいぞ」
にっこり。
ぞわぞわ。
めちゃくちゃいい笑顔を向けられた。
え、今までそんなに表情変えてなかったじゃん。
このタイミングでその表情筋の使い方はやばくないか?
まさか「ハンデ」って言ったの、そんなに怒った?
説明求む、と思わず赤髪に目線を向ける。
気付いた赤髪は深く二回頷いて、胸の高さに挙げた手をぐっと握って、脇をしめた。
まるで「がんばれ!」とでも言っているようだ。
うっせ。
おっと。
思わず悪態をついてしまった。
応援されたのなんて実は百年ぶりくらいなんじゃないか。
まさかここでは敵である奴から久々の応援を貰ってしまうとは。
私様が応援されるぐらいってことは、煽りすぎたのか?
あの頷き二回は、怒ったってことなんだろうなあ。
後には引けない背水のなんたらを感じながら、相手に見直す。
あ、やばそう。
女魔術師は魂を刈り取ろうと大鎌を振りかざしていた。