第130話 療養院
「では、行きましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
クザ先生の後を追って歩き出した。
長期休暇の半ば過ぎである四週目。
私たちは街の療養院に向かっている。
医術師であるクザ先生は、普段から週に何回か往診している。
城の医術師だったり、教師だったり、往診医だったり。
実はクザ先生って何人かいるんじゃないかっていうぐらいの仕事量だが。
今回は泊まり込み。
この世界では療養院と言われているが、私の知る情報からすると病院に当たる。
それも、終末期医療の病院。
死を待つ人が多い所。
「コウ君とは話せた?」
「いえ……あれからお城で、忙しいみたいで」
ギルドの任務から戻って以来、殿下とは会えていない。
国王陛下がなくなったということが伝えられ、原因や、状況、後継者について色々と必要なことが多いのだろう。
私には知れる手段はない。
長期休暇期間ということもあって、殿下は城にこもりきりなのだろう。
シオンも寮にはいないみたいだし。
そして、街には国王陛下が亡くなったというお触れは出ていない。
混乱を避けるため、というのもあるが、実は他にも理由があるのかもしれない。
例えば、争いとか。
「カミル君もね。帰ってきてないのよ」
「騎士団も忙しいんですか?」
「そうみたい。なぜかはわからないのだけど。……おかしいの。わたくしが国王陛下の状態を診たのだけど、気になる点はなかったの。なさ過ぎて逆に気になって……。そう言ったのに、あまり詳しくは調べさせてくれなかったわ。一体何をしているのかしら」
しょんぼりとして、悲し気に眉を下げる。
医術師としては、国王陛下が突然亡くなるというのは、もしかしたらプライド的にも悔しい所があったのかもしれない。
何かを見落としていたのではないかとか、自分を責めてしまうかもしれない。
それを、調べさせてはくれなかったという。
不完全燃焼。
やりきれない思いは強いだろう。
調べさせてはくれないのに、騎士団としては警戒中だ。
納得のいく答え出す役目のクザ先生を差し置いて、何かしらの根拠を持って活動している。
国王陛下が亡くなったという情報を漏らさないためにも警戒は必要かもしれない。
けれどこれが他殺だった場合、どうして殺されてしまったのかを調べなければならない。
それをさせてくれないということは、クザ先生からしたら、信用されていないと言われているようなもの。
目線を落としながら、クザ先生は話し続けた。
「国王陛下のことも気になるのだけど、最近、カミル君の様子が変なの。何か知らない?」
「カミルさん、ですか。長期休暇前に会った時は痩せたかなって思ったぐらいです」
「そうよね。痩せたの。ちゃんと食べてるのかしら」
はあ、と息を吐く。
これから仕事に向かうというのに、足も気持ちも重そうだ。
旦那さんのことが気になるのだからしょうがないとも思うが。
カミルさんにも最近は会っていない。
お城は今は立ち入り禁止だから、機能訓練もお休みだ。
国王陛下が亡くなって、城の雰囲気がピリついている。
そんな中で、無理に通してもらうようなことはさすがにできない。
というか、私の場合は入ったらそのまま出してくれないかも。
そういう対応をされたわけではないが、それだけ、異様な雰囲気を放っている。
だから、近寄れない。
だから、皆の様子がわからない。
「くよくよしてても仕方ないわね。頑張りましょう! よろしくね、ヒスイさん」
「はい。よろしくお願いします」
もとはとてつもない仕事量をこなすパワフルな人だ。
気分の入れ替えもお手の物の様。
足元を見ていた視線は、今はもう前を見据えて光を宿している。
これから向かう療養院は、おそらく、そうじゃないとやっていけない。
―――――……
敷地内に森がある、お城に似た雰囲気の建物。
規模はもちろんお城の方が大きいが、こちらも負けじと劣らず大きい。
壁は綺麗に塗装されているし、門も綺麗に磨かれている。
門越しに見える庭には噴水があり、周辺には色とりどりの花が手入れされている。
なんとなく裕福そう。
ベルを鳴らし、名乗る。
すると中から聞こえた声と同時に、門が自動で開放された。
歩みを進めれば、目的の扉から出てくる、それぞれ濃淡の紫色の髪をした小柄な二人。
「お待ちしてましたー!」
「ご、ご足労頂き、ありがとうございます」
「あれ、なんでここに」
いつでも元気いっぱいのライラさんはこの地でもいつも通り。
ナオさんもいつもと様子変わらず、少しオドオドしている。
なぜ二人はここに?
「こんにちは、二人とも。皆さんの様子はどうですか?」
「今はみんなでお食事してます! 体調の悪い人はお部屋で先生のこと待ってますよ!」
「そうですか。では早速、回って行きますね。ヒスイさんはまず、中を案内してもらってください」
「あ、わかりました」
私の疑問は置いてかれたようだ。
ライラさんとクザ先生がずんずん中に進んでいき、私は取り残され、どっちに着こうか迷っているナオさん。
「ナオさんたちは、なぜここに?」
「え!?」
聞いてみた。
驚かれた。
クラスメイトなのに……ちょっと傷ついた。
「こ、ここここは、ク・フロロ家が運営しているんです」
「おや、お二人の家でしたか。すみません、勉強不足でした」
「いえ! 気にしないで……ください!」
そうか。
だからお二人がいるのか。
長期休暇の前に家の手伝いがあると言っていたのはこれのことだったのかな?
流れでナオさんが案内をしてくれるということになり、二人して玄関から移動した。
食堂は皆が食事中ということで、後回しに。
まずは泊まり込みということで、荷物を置かせてもらう部屋に案内してもらう。
歩きながら、中を見渡す。
掃除が行き届いていて、誇り一つなさそう。
ステンドグラスも日の光で輝いているし、飾られている生花もとても豪華だ。
「立派な建物ですね」
「あ、ありがとうございます」
貴族を示す間名は「ク」。
階級的には一番低いものだが、これだけ立派な建物があれば、少なくとも最低位ではないんじゃないか、と素人ながらに思う。
他に何か条件でもあるのだろうか。




