第129話 転換期を迎える『ヒスイ』
二人とともに戻って、険しい顔で話し合っている大人たちと合流する。
「どーも。戻りました」
表情を戻し、話を中断した。
私様たちには聞かれたくない話かな。
まあ、城にいる人間だからな。
一般人には話せないこともあるだろう。
「この後はどうするか決めてんです?」
「水の中の確認をしたら、周囲を見回って終える予定だ」
ということで、水辺に溜まった水をまとめて持ち上げて、底に溜まったルルの死骸やついでのゴミ類を目視で確認。
底の部分だけを切り離し、綺麗な水だけを元に戻した。
切り取った方は陸に上げ、ルルの死骸のみ持ち帰る。
調査に使うために。
虚空に死骸、あと水の中のゴミをまとめて入れて、閉じる。
「じゃあ、私様は変わりますよ」
「そうか。わかった。ありがとう」
「どーも」
―――――……
灰色の以下略。
あのあと、弟子に交代して、三人で森の中を見回りしていた。
残党は見当たらず、まあもしかしたらどこかにいたのかもしれないが、ひとまずは被害は抑えられるだろう。
木々へのダメージも少なかったと。
そういうことで、弟子が≪玩具箱≫が解除し、送迎車と送迎者と合流。
午前中に始めた作業も夕方で、それ以上長引いていたらどうしようかと悩んでいたらしい。
まさか一日で終わるとも思っていなかったと驚いていた。
キョルのことについて話したら、さらに驚いていた。
しかしこのことはギルドの一部のもののみに伝達するように、王子サマから指令が出た。
箝口令、とはまた違うが、上層部にしか知られないだろう。
森の中の村もそうだったが、大量発生からの異常繁殖、異常進化が起こりうる可能性は大いにあるからな。
いやあ、そうなったらまたお会いしたい。
研究は尽きないなあ。
「……スグサさん……?」
「おっと、すまんすまん」
今は同じ顔の奴と膝を突き合わせている時だった。
つい頬が緩んでしまったな。
「なんだっけ?」
「魔法の総評のことです」
「ああ、そっか」
つっても、今回は私様は口出ししてないからなあ。
意識が出たが。
氷の足場を作り、水を湧きだたせて送り出す。
風を吹かせて弾き落とす。
どちらも気にダメージを与えないよう、力加減は必要な内容だった。
結果、木にダメージはほとんどなく、水も溜まりすぎることはなく、良好。
大いに結構だったと思う。
「うん。よかったんじゃないか?」
「そうですか。よかったです」
「本当なら、キョルのこともやらせてもよかったんだがな」
「あれは……スグサさんが出るって言ったんじゃないですか」
「そうなんだよな」
あっはっは。
そうしても知らない魔物を見ると調べたくなる。
そういう性質は死んでも変わらないな。
「お前、魔法上手くなったな」
「成長は自分でも感じてます」
「いいことだ。正確な自己評価は成長に必要なことだ。過信せず、謙遜せず。あるがままの自分を見つめ続けろ」
「はい」
堅苦しいな。
もういいや。
「今後なんだがな」
「はい?」
「白い虫。バラファイ、覚えてるか?」
「はい。光を放ってた、死者を喰らうっていう」
そう。
度々弟子の前に現れていたアイツ。
最近見かけないんだよな。
「あいつ見かけたらすぐ変わってくれ」
「? 何かあるんですか?」
「あいつが私様の家の鍵を持ってる」
「鍵……え、お知合いなんですか?」
「まあな」
確証はない。
だが、弟子の……私様の外見をした者の近くに現れるなら、つまりはそういうことだと思う。
アイツ、私様のことが大好きだからなあ。
……うーむ。
「どういう……」
「んーそうだな。性格は変態。知り合った経緯は、まあ、本人に聞いてからだな」
「へんたい」
変態だな。ありゃ。
私様の物をなんでもストックするし。
私様が持ってる私物より、アイツが持ってる私様の私物の方が多いって言ってた気がする。
何を持ってるんだか。
見つけたら全て燃やす。
「そんなことで、よろしくな」
「わかりました……」
「じゃあそろそろ寝ろ。明日もあるんだろ」
「そうします。おやすみなさい」
「おやすみ」
―――――……
次の日。
扉を叩く音で目が覚めた。
今泊っている部屋は皆個室なので、部屋には私一人。
ロタエさんとカエ様は別の部屋にいるはず。
時刻は……まだ明け方。
行動にはまだ早いが、何分、切羽詰まった叩き方をしている。
「ヒスイ、朝からすまん、起きてないか?」
「起きてます」
声はカエ様のものだった。
そっと扉を開けて、声の持ち主の顔を見る。
表情は……白い。
良くないことが起こったような顔をしている。
「早朝から本当に申し訳ない。俺とロタエは城に戻ることになったんだ」
「急ですね、何かあったんですか? 顔色もよくない……」
「いや、これは……すまん、俺もなぜそうなったのかまだ理解できていなくて……」
顔で手を覆い、動揺を必死に鎮めようとしている。
本当に良くないことが起こったようだ。
私には話せない、国のことだろうか。
部屋の出入り口で立ち話もなんだとは思うが、きっと、時間はあまりない。
「じゃあ、私も戻ります」
「……悪いな」
「いえ。大丈夫です。やらなければならないことはやったのですし。すぐ準備しますね」
「……あ、ちょっと待て」
ぱたん。
扉が閉じて、私の部屋に、カエ様が入ってきた。
掴まれた腕に触れる皮膚はひんやりしていて、血が通っていないみたい。
目の前に移る焦った瞳と顔も、血の気がない。
今にも倒れてしまいそうだ。
「え……と」
「あ、いや、すまん。話しておかないとと思って」
カエ様……殿下は、小さく両手をあげて、『何も怪しいことはございません』のポーズ。
そんな警戒はしてないけれど。
……掴まれていた部分が、冷たい。
「本当にすまん」
「謝ってばっかり。大丈夫ですよ。どうぞ。無理なさらず」
「……俺も、大丈夫だ。今回、早く帰ることになった理由なんだが」
ぽつりと独り言のように呟かれた言葉。
ああ、確かに。
それは顔色も悪くなるし、焦るし、二人は先に帰ることになるだろう。
というか、これは本当に一大事だ。
え、この国どうなるの、みたいな。
国王陛下が、死んだようだ。
―――――……




