第124話 ≪地下からの怒号は天をも貫く≫
よしよしと頭を撫でたら、ゆっくり離れてくれた。
ここまで慕ってくれるのに、戦いに協力してもらおうというのは……少し、申し訳なく思う。
スグサさんは、どうしてたんだろう。一緒に戦ったりしてたのかな。
これが落ち着いたら聞いてみよう。
「では、魔法についてですが」
ロタエさんから水の魔法を聞く。
幸い、私も本で読んだことのある魔法だったのでイメージはしやすいものだった。
ただ上級魔法なので、力加減は注意が必要。
呪文まではさすがに覚えきれない……ので、属性文のみでいく。
「ヒスイさんはコントロールがお上手ですから、心配でしたら弱すぎる程度の力でやってみて丁度いいかもしれませんね」
「褒められた……ありがとうございます。それでやってみます」
ロタエさんから魔法を習うのも久しぶりだなあと思いながら、唐突に褒められて浮つく気持ちを必死で抑える。
氷の上で、先頭に立つ。
ウーとロロは足にくっついている。
子ども体温なのか温かい。
「では」
両手を再度に広げ、大きく息を吸う。
まずは、結界から。
「≪放り込まれた玩具箱≫」
実は一番使う頻度が多いんじゃないかと思われる、≪玩具箱≫。
草木も取り込み、オアシスを含みつつ、余白に当たる砂漠地帯はなるべく入れないように展開した。
草木の間から射していた日光すらも遮り、やや活動しやすくなった。
ルルたちの様子は……あまり変わらない。
当然と言えば当然?
大事なのはここから。
「続いて」
二つの魔法の同時発動。
実はこれもこの世界では常識外らしいけど、スグサさんは出来て当然のように言っていた。
本当にスグサさんの言うことは当てになることも当てにならないこともある。
魔法の使用については信じてはいけない。
ロタエさんから教わった魔法。
同じように両手を広げ、≪玩具箱≫の端っこから、水が湧き出るように。
ただし威力は弱く、まずは地面にいるルルを流していく。
「水・上級魔法 ≪地下からの怒号は天をも貫く≫」
ロタエさんとスグサさんが戦った時は間欠泉だったけど、それよりは湧き水程度の可愛い物。
吹き出していても大体膝ぐらいの高さ……ぐらいだと思う。
見えていないので何ともわからない。
発動して数秒後、周囲から一斉に水が流れてくる。
大体高さは脛ぐらい。
私たちがいる水辺に合流するように、どんどん流れ込んでくる。
水面と一緒に氷が揺れる。
「混ざってるか?」
「……目視は難しいですが、おそらくは」
「よし。では、やろうか」
ロタエさんもカエ様も、片手を前に突き出し、私を含めて三角形になるように別々の方向を向く。
小さい二人はまた足にくっついてる。
「ウー、ロロ」
「んー?」
「なあに?」
小首傾げ、上目遣い、大きい目がきょとんと見つめてくる。
すごく、可愛いです。
「向こう岸に掌ぐらいの黒っぽい生き物がいるの。それを倒してほしいんだ」
「たべていいの?」
え、食べ……?
―― 良い。平気だ。
「う、うん。いいよ。棘があるから気を付けて」
「わかった!」
「ごはんだー!」
ここにいる誰よりも張り切って、勢いよく水に飛び込んだ。
二人とも得意げに、たぶん私よりも素早く上手に泳いで、対岸へ到着。
わーっっと楽しそうな声が聞こえ、本人たちは遊び感覚かもしれない。
「今更だけど、毒とか大丈夫かな……」
―― あいつらは大丈夫だ。皮膚はルルの針を通さないし、そもそもあいつらに毒は効かない。
毒が効かない……?
それは、ウロロスという種の特性だろうか。
それとも『あの二人だから』なのだろうか。
内心問うてみたけれど、受け流されてしまった。
「また今度な」らしい。
あの二人にも色々あるのだろう。
分離できたり同化できたり、それだけでもウロロスとしては異常らしいというのは聞いているので。
スグサさん、秘密はたくさんありそうだ。
「すー!」
「おいしーよー!」
すっかり目を覚まし、両手でルルを持って口を膨らませている様子は、本当に好物だけのバイキングにでも連れてきた気分になる。
大きく手を振って応えた。
やや呆気に取られていたが、気を取り直して私も魔法で攻撃する。
同時に、足元も警戒。
水中を移動することはできないとされていたけど、念のため。
「狙いが小さい分、難しいな」
「なかなかハードな訓練を受けている気分になります」
「魔術師団の訓練と比べると?」
「こちらのほうがなかなかですね」
ロタエさんはこの状況を、魔術師団の訓練に応用するつもりらしい。
独り言をつぶやきながらどのようにするか考えている様子。
というより、二人ともなんやかんや言いながらも魔法を発動して命中させている。
本当に難しいと思ってる?
目に見えるルルはある程度さばいたところで、二発目の湧き水、≪地下からの怒号は天をも貫く≫を使う。
対岸にいるウーとロロが、生きているものも攻撃済みのものもひたすら食べ、けれどその手が止まった時、次の段階に移る。




