第123話 ≪漂う結氷≫
治った。
砂の上をもそもそと歩き、オアシスに足を踏み入れる。
一応身を守るために全身を合羽で身を包んでいる。
日陰に入った瞬間涼しさを感じ、日差しの強さを物語る。
「この暑さで合羽はさすがに辛いな」
「目の前まで送ってくれてよかったですね」
「全くだ」
とは言うものの、合羽はもちろんフードも脱ぐことはできない。
ルルの針は人肌は通しても合羽を通すほどではないからだ。
オアシスには中央に水辺があり、そこで休んでいた人が多く狙われたという報告が上がっている。
なので第一に目指すのはそこ。
一列になり、なるべく物音を立てずに歩く。
水辺までの道は人が通れるようになっていて歩きやすい。
合羽さえなければ観光気分になれていたかもしれない。
ラースの時に使った扇風機代わりの魔石も、合羽が飛んでしまうため使えない。
持っている水分を取りながら熱中症にならないように対策する。
できれば水辺に着いた瞬間に一度休みたいところだが……。
「……ついた」
「いますね」
「ああ。ヒスイ、見えるか」
「はい。結構小さいですね」
遠目だが、微かに動くそれが見える。
実際はものすごく見えにくい。
動いているからこそ見える。
草の上の迷彩って強いな。
大きさは大体……掌大かな。
今まであった魔物の中で一番小さい。
んー、どうしようか。
今回の討伐、皆でやって早く終わらせた方が良さそう。
被害者も多いし、あれだけ標的が小さいと見つけるのも苦労する。
夜には活動できない。
夜こそ向こうの活動が活発になるから。
危険は冒せない。
「カエ様、ロタエさん」
「どうした」
「はい」
「協力してもらいたいです。みんなで」
一も二もなく頷いてくれた。
この二人が手伝ってくれるなら、大丈夫。
油断かもしれない。
けど、そうお思わずにはいられない。
私が油断しても、きっとこの二人が気付いて、叱ってくれるだろう。
「それで、どうするつもりだ?」
「考えてきた作戦は、まずは逃げられないようにオアシス全体を結界で閉じます。水辺の中央を安全地帯として、私の水魔法で全域にいるルルを水辺まで押し流します。集まったところで攻撃してください」
「周囲のダメージを減らすために、水魔法は弱めにすべきですね」
「はい。もし良い魔法があったら教えてください。ぶつけ本番になってしまうかもしれませんが……」
オアシスはこの地では重要な場所なので、ダメージを与えることはなるべく避けたい。
けれどこの作戦で行くならば、どうしても多少は避けられない。
「押し流してからも少し懸念はあるな。相当な数がいるだろうということと、水に入ってしまったものは死ぬだろうが、量次第ではそのままにするわけにもいかない」
「それは、この二人にも手伝ってもらいます」
首元のネックレスに触れる。
赤い石に眠っているであろう、この子たちに。
「ほう。いいな」
「では安全地帯についてから押し流す用の魔法をお伝えしましょう」
「お願いします」
その安全地帯には風魔法で移動する予定。
だが今は足場がない。
なので私が跳んで、氷の足場を作ることに。
木にはルルがいる可能性があるので登れない。
そのため、二人が見守る中、その場で飛び上った。
そして空中で魔法を素早く使う。
「≪漂う結氷≫」
ちょっと不思議な名前だが、水面を凍らせるだけ。
三人……いや、五人が余裕を持って立てて、かつ岸まで届かない程度の大きさの氷。ざっと四畳半ぐらい。
岸までの距離もテニスコート二面分は離れているので、滅多なことがない限り大丈夫だろう。
滑らないように土をひいて、二人に合図を出す。
すぐに跳んで来た。
「うまくいったな」
「はい。よかったです」
では、ここでウーとロロを呼び出す。
首元から石を取り出し、地に置いて表面を三回叩く。
仄かに光りだし、光は石を持ち上げて形を成していく。
左右対称な双子、ウーとロロ。
「……?」
「……すー?」
「こんにちは、二人とも。少し久しぶりだね」
量にいるときは定期的に部屋で一緒に過ごしていたけど、任務期間中は今が初めてだ。
五日以上も会っていないのも初めて。
寝ぼけ眼の二人はじーっと私を見つめてくる。
半開きの目のまま、ゆっくり近づいてきて、ぎゅーっと。
「すーうー」
「ねむーい」
「おぉう」
「はは、好かれてるなあ」
抱き着かれるのは悪い気はしないけれど……。
眠気のある二人は体が温かく、合羽の中がまだ蒸れている私には少しきつい。
だが幼児の二人を引きはがすことは……できない……っ。
「ふ、二人にお願いしたいことがあって」
「おねがいー?」
「ねむーい」
「これが終わったら欲しいもの買ってあげるから……」
ゆっくりと顔を上げ、さっきより少し大きく開いた眼で見上げてくる。
疑っている、というか、もう一度、という感じかな。
「ほ、ほんとだよ? 何でもは難しいけど、買えるものなら……」
「じゃあ」
「やる」
ぎゅっと抱き着いてきた。
え、やってくれるんだよね?
寝ようとしてない?




