第122話 砂の街
ということで、宿から海沿いのギルドへ行き、転移させてもらう。
今日はもうお祭りはやっていないが、海水浴を楽しむ人が大勢いて相も変わらず賑やか。
ギルドの入り口付近には浮き輪やタオルが売っている。
売店も兼ねているみたい。
入ってさっそくお婆さんが受付をして、最初に来た時と同じ転移の陣が書いてある部屋に行く。
今回は報酬を受け取り済みだったため、改めて代金を支払った。
「行先は……なんだい、砂に行くのか。また暑い所に」
「まあ、任務なんで」
「そうかい。気を付けてるんだよ。ほれ」
餞別に名産のお茶を貰った。
暑さに気を付けろ、とのことらしい。
有難く頂戴して、転移が発動する。
姿がお互いに見えなくなる前に、お婆さんは後ろを向いてしまった。
けど、悪い気はしなかった。
「らっしゃーい」
白い景色の向こう側には、黒髪をポニーテール……緩くお団子っぽくした、色黒の男性。
今までのギルドの人の中では一番若く、中年ぐらいか。
細くも太くもない……ように見える。
背もたれの椅子を反対向きに座り、頬杖を突きながらお出迎え。
のったりと立ち上がり、と部屋の扉を開けた。
「カエ様ご一行っすね。こちらへどーぞー」
今までと同じように別室に通され、その先はまさかの掘り炬燵風。
中を覗いてみたけど温かくはならないっぽい。
形だけ掘り炬燵。
「変わったテーブルだな」
「そうですね。聞いたことはありましたけど、見るのは初めてです」
この世界ではあまり知られていない構造らしい。
まあ、国はどちらかというと洋風だしなあ。
私としては懐かしくなって楽しいのだけど。
温かくなるようにしない、だろうなあ。この地域は暑いらしいし。
今回は私とロタエさんが並び、カエ様と色黒の人が並んでいる。
「最初は自己紹介っす。オレはショウ。よろしくー」
話し方はセンさんに似た印象。
私たちも名を名乗り、書類を手にしたショウさんが読み上げる。
「任務は最上級の-ね。薬は持ってる?」
「持っています。こちらはこの国に買い取っていただく分です」
「お、助かるー。では後でお会計を」
自分たちの薬が入った袋の何倍も大きい袋は、この地域の不足分を補うための様。
去年までは賄えているのに、今年からか今年だけか、足りていない。
それはルルの異常繁殖によるものだとショウさんが話す。
また、異常繁殖。
「例年と比べどれぐらい増えている?」
「軽く五倍っすかねー。薬はそれ以上に足りてないっす」
「まあ、そうなるな」
猛尾・ルルの特に怖い所は、食事の仕方。
毒は体が麻痺し、短くとも一日は全く動けない。
毒について言ってしまえばその程度。
ただし、もちろん痺れるだけでは済まない。
身体が動かなくとも意識は残る。
障害されるのは触覚だけ。
視覚や聴覚はそのままだ。
そんなときに行われるルルの食事というのが、『体を貪られる』こと。
一匹ではなく、何十、何百匹に。
痛みは感じない。
しかし喰われているところはしっかり見えて、聞こえている。
次第に麻痺が取れ、触覚が戻り、痛みを感じるようになる。
喰われたところがわかるようになってしまう。
喰われて亡くなる方はもちろん、ショックで亡くなる方もいる。
だからこそ、麻痺を解毒する薬が必要だ。
「死者は……まあ、多いっす」
「ああ、聞いている。だからこそ早めに対応させてもらう」
「よろしく頼んます」
悲痛な表情で、私たち全員に向けて頭を深く下げた。
その様子で、ことの深刻さとこの人の真剣さがより大きいものだとわかる。
自分の修行のためなんて言っていられない。
早く片付けるための行動をとらないといけない。
「ではさっそく向かう」
「じゃあ出現場所まで案内するっす」
「頼む」
ギルドを出て、馬車……ではなくラクダっぽい車に乗る。
ラクダっぽい、こぶ三つと足六脚の緑色の生物。
手綱を引く運転手の位置にショウさんが座り、荷台に乗り込んだ。
両サイドに座席があり、天井から真ん中に吊り輪がぶら下がっている。
まるで電車やバスのよう。
「じゃあ行くんで、しっかり掴まっててくださーい」
ピシっとラクダっぽい生き物のお尻を叩き、高らかと叫んだその生き物は駆けだした。
それはもう、すごいスピードで。
「うわっ」
「ヒスイっ」
「っと、すみません」
「凄まじいな。しっかり掴まってろ」
荷台で座っていても体のバランスが崩れ、ガタガタと揺れ、髪が真横に靡くほどの猛スピード。
なるほど、天井から吊り輪があるのはそういうことか。
ホントに電車のようだった。
話す余裕のないほどに飛ばしていて、外の景色を見る余裕はない。
一体どこを走っているのだろうか。
「……うっ」
とりあえず、酔いそう。
―――――……
「うえぇ」
酔った。
荷台の影でロタエさんに背中をさすられる。
飲みかけだったお茶があってよかった。
見渡す限りが砂、砂、砂。後ろには荷台。
その後ろにはオアシス、つまりルルの住処がある。
オアシスの中に拠点を作るわけにはいかず、といっても炎天下で日陰もない場所にするわけにもいかない。
ということで、この荷台を拠点とさせてもらった。
「なかに水分も軽食も積んでるんで、必要であれば使ってもらっていいんで」
「助かる。ありがとう」
体調が整い次第、さっそく調査に向かう。
二度もすみません。




