第120話 友情と愛情と
試験の時とは違い、魔法ではなく玉を投げて的に当てるだけのもの。
弓道の的のように大小の円があって、中央程得点は高い。
球は全部で十個。
二人が同時にできるため、隣同士でやることに。
「嬢ちゃん頑張んな」
「はい」
「待て。俺には声援はないのか」
「おっちゃんはフェミニストさ!」
玉を渡しながらガハハと笑う、ガタイの良いひげを生やした店主に背中を押され、俄然やる気が出てきた。
少し拗ねてるカエ様が少し可愛らしくも思う。
店主から声援を受けたところで、勝負は勝負。
真剣に取り組む。
決して媚びを売ろうとは考えていない。うん。
受け取ったら自由に始めていいスタイルなので、カエ様と目線を合わせ、スタート。
……。
負けた。
外枠にしか当たらなかった。
「残念だったなー嬢ちゃん」
「残念です。悲しいです。泣きそうです」
「ほら、参加賞だ」
「ありがとうございます」
このお祭り、というか町のマスコットだというキャラクターのストラップを貰った。
中央に一回ぐらいは当たると思っていたのだけど、考えが甘かった。
本当に端っこにしか当たらなくて、玉があちこちに飛び散って拾うのが大変そうだった。投げるたびに謝ったけど。
逆に、カエ様はほぼほぼ中央が多く、点数は聞かずとも高得点なのはよくわかった。
「おめでとうございます……」
「ありがとう。結構負けず嫌いなんだな」
「そうですね。今めちゃくちゃ悔しくて、再戦を申し込みたいぐらいです」
「受けて立つが、せっかくだから別のにしよう」
辺りを見回し、他のゲームを探す。
安全のためか、魔法を使うものはほとんどないようだ。
ボウリングみたいなもの。
輪投げみたいなもの。
金魚すくいみたいなもの。
時間はまだ余裕があるし、人が増える前に色々遊んでおきたい。
「近場から攻めるか」
「はい。次こそ勝ちます」
「俺も負けず嫌いなんでな。悪いが油断も容赦もないぞ」
「もちろんです。コウ」
ぱち。と、瞬き。
そういう勝負だったから、と呼んでみたが、呼べと言った本人が驚いている。
確かに前触れもなくだったが、硬直してしまうほどだっただろうか。
「コウ?」
「あ、ああ。悪い、驚いた」
「そんなにですか」
「悪かったって」
やや頬を赤らめるコウは初めて見たかもしれない。
驚いたことがそんなに恥ずかしいのか。
隙を見せた、とか、そんなところだろうか。
気を取り直すように咳払いをして、さあと足を進める。
「はぐれるなよ」
「コウも、気を付けてくださいね」
「もう勝負始まってるのか?」
―――――……
一通り遊びつくし、一直線の端から端までを歩き切った。
端は飲食スペースが広くとられていて、一時休戦とした。
コウは飲み物を取りに行ってくれて、私は席をとって待機している。
―― よう。
スグサさんの声が響く。
人がたくさんいるから、声には出さないようにしないと。
会話中の視線のやり場に困るので、両手を組んで顔を伏せる。
―― 楽しそうだな。
楽しいです。負けっぱなしで悔しさもありますけど。
―― 勝率二割ってところか。運動系はしょうがない。なんせ私様の体だからな。
運動は苦手だったんですか?
―― 研究と魔法に生涯を捧げたんだ。無理もない。
気持ちいいほど開き直ってる。
でもそうか。
もともとの自分の身体ではないからどうにもイメージがずれていたのか。
今までの動きは魔法で補助していたのもあって動けていたのかな。
そういえば体力はないほうだったし。
―― 私様とも一つやろう。
え、何を? どうやって?
―― 王子サマが何を持ってくるか予想。勝った方が相手の願いを一つ叶える。
……じゃあお茶。
―― 私様はジュース。
ちなみになぜ突然?
―― 気分。
気分。
なるほど。気分というか気まぐれか。
スグサさんもこの場に体があれば、一緒に楽しんだのだろうな。
体があればってなんだか不思議な表現だけど。
……いや、スグサさんの体は、ここにあるじゃないか。
―― ……弟子。
はい?
―― お前、王子サマのことはどう思ってる?
どう、とは。
―― 好き?
好きですね。
―― ……それは恋愛として?
れんあい。
ああ、恋愛。
恋と愛。
―― それとも友情?
友情、というのもどうとは思いますが。慕ってはいますよ。私を自由にさせてくれてますし。
―― あくまでそういう立場か。主従というか、上下関係。
そうですね。
―― ふーーーん。
嘘偽りはない、と思う。
そもそも一国の王子様にそんな感情を抱くのは、行ってしまえば無駄だと思う。
貴族でもない、出自もしっかりしていない、研究によって生み出された死体のようなもの。
コウのことだ。
第二王子だとしても世継ぎが必要だろうし、そうなると私には難しい可能性が高い。
理由は言わずもがな。
こうして一緒に遊べているだけでも、私は一般の人よりも恵まれている。
―― ま、いいか。
なんで突然そんなこと聞くんですか。
―― 楽しそうだったから。
楽しいは楽しいですけど、他意はありません。
―― わかったって。そろそろ来るんじゃないのか?
言われて、伏せていた顔を上げる。
目の前の少し離れたところにその人の姿が見えた。




