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【コミカライズ12/26から】魔術師は死んでいた。  作者: 彩白 莱灯
長期休暇

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118/121

第117話 病に伏せる『ヒスイ』

 ―――――……





 ……。

 寝息が聞こえる。

 眠ったようだ。


 表情に感情を出さないヒスイの顔が、いつになく顔を変えていた。

 嬉しく思いつつも、その顔は明るいものではなかったから、素直には喜べなかった。

 今も決して穏やかではなく、汗を滲ませている。

 相当に熱が高いようだ。


 無理をさせたと今では反省している。

 表情が見えないことに気を抜いていたわけではないが、ただ張り切っているように見えた。

 だからこそ任せ、協力できるところはやろうとしていた。

 配分を間違った。


 タオルが乾いてきた。

 取り換えよう。

 こうして人の世話をするのは久しぶりだ。

 小さいころにメイドに交じって弟の世話をしたことを思い出すな。

 あいつも大きくなってからは伏せることも少なくなったし。

 当時の記憶を思い出しながら必要なものを言わなければ。



「ロタエ」

「はい」

「飲み物と食べ物、あと氷……タオルと、一応着替えはあるのか?」

「一応手配します」



 念話が終われば沈黙が訪れる。

 否、寝息が規則正しく聞こえている。

 外出用の服だから寝心地は悪そうだが、さすがに着替えさせるわけにはいかない。

 すまん。

 定期的にタオルを変え、室温を整え、ロタエの帰りを待つことどれくらいか。

 ドアをノックされた音で、意識が飛んでいたことに気付く。



「ハッ」

「失礼しています」

「おおおお帰り!」

「……戻りました」



 聞こえる、聞こえるぞ。

 「寝てたんですか」という言葉が。

 その冷たい目をやめてくれ。

 俺も熱を出しそうだ。



「買ってきました。ヒスイさんは……よく寝ていますね」

「ああ。自然と起きるのを待とうと思う」

「それがいいと思います。スグサ様は……出てきていないのですね」

「そういえば、そうだな」



 スグサ殿が活動して、治りが遅くなったらヒスイが辛いだけだし、それを考慮してのことかもしれない。

 そもそもスグサ殿はあまり俺たちとは関わろうとしていないから、ただ必要がないだけ、ということも考えられるが。

 どちらにしろ、今はゆっくり休ませてやるのが吉だろう。

 飲み物と食べ物を一食ずつ、椅子の上に乗せて手が届く位置に置いておこう。

 俺たちは話があるから、続き部屋に行っているからな。



「……何か報告は?」

「団長から、スパデューダの巣にあったご遺体について、身元が分かった者がいるそうです」

「そうか。隣で詳しく聞こう」



 時は日暮れ。

 不穏な話はヒスイが起きるまでに済ませたい。






 ―――――……





「おーい、大丈夫かー?」



 うん。大丈夫じゃなさそう。

 めっちゃだるそうだ。



「……だるいです」

「だよなー。お大事にー」



 目に力がない。

 だが恨めしそうに見ているのはわかるぞ。

 段々表情を読むことにも慣れてきたと実感する。

 いつも通り胡坐でいるのに対し、いつも正座で姿勢良くしていた目の前の奴は、両膝を立てた状態で横になっている。

 起きていられない程辛いとは、かわいそーに。



「……スグサさんは、大丈夫なんですか?」

「んあ? なんで?」

「だって、同じ体じゃないですか」



 おお、今度は変なものを見る目だな。

 興味を示すことはいいことだ。

 私様は怒らないぞ。褒めてやろう。

 だが同時に、訂正が必要だな。



「お前は勘違いしているな」

「勘違い?」

「私様は『記憶』であって『人格』ではない。体調不良の記憶はあっても、実際の影響は受けない存在だ」



 まあ、体を動かしてたり魔法を使ったりして居れば、勘違いするのも無理はないか。

 だがそんなこんなで、私様は痛くも痒くも辛くもない。

 へっちゃら。

 だから体を使って活動してやってもいいんだが、体が疲れれば回復にも時間がかかる。

 そうなってしまえば辛いのは弟子だ。

 熱に侵される時間が長引いて、ギルドの任務を行う時間が無くなって、王子サマと女魔術師を足止めさせてしまう。

 だから大人しくして居ようと決めた。



「これに懲りたら水シャワーはやめておくんだな」

「……」

「お前、意外と表情豊かだな?」

「え」

「いや、いい。いいからもう水シャワーはやめろ。大丈夫だから」



 何が、とは聞かせない。

 目を伏せ、視線を外す。

 意識の中とは言え、あまり長々と付き合わせてはよくない。

 言いたいことは言ったからもう引っ込んでもいいのだが。



「何か言いたげ気だな?」

「いえ……」



 口では何とでも。

 目は口程に物を言う。



「言えよ。言ってからさっさと寝ろ。言わないと眠れなさそうだ」



 ちょっと意地を悪くしてみた。

 こういう時はついつい口元が上がってしまうのは悪い癖だな。

 煽ったような言い方に弟子は表情を変えず、口籠りながら意を決したように発した。



「スグサさんは、この体をどう思っているんですか?」

「どう、とは」

「えっと、なんと言えばいいんでしょうか。何か知っているのですか?」



 知っている。

 うん。知っている。

 そりゃあ私様の体だし、いろいろ知っているが、弟子が知りたいのはそういうことではないのだろう。

 『この体には何が起こっているのか』

 とでも聞きたいのだろう。

 言わないけど。



「今は言えることはない。ただ、悪いことではない」

「悪くない……」

「ああ。大丈夫。悪くない。ただ魔法を使いすぎただけだ」



 焦らすこと自体はあまり好きではない。

 だから申し訳ないとは思っているが、本当に今は言えない。

 今は。



「わかりました」

「わかったんだ?」

「スグサさんが、後々話してくれるのだろうということが。それなら、それを待ちます」



 ……。

 寝息が聞こえる。眠ったようだ。

 聞きたいことを聞いて、一人満足したか。

 まあ、いいけど。


 おやすみ。






 ―――――……

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