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【コミカライズ12/26から】魔術師は死んでいた。  作者: 彩白 莱灯
長期休暇

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第115話 ≪伝雷≫

 電話をしながらメモを取るように。

 鍋を混ぜながらテレビを見ているように。

 歩きながらスマホをいじるように。

 マルチタスクをやっている時なんて、実は結構な頻度であった。

 それと同じ。

 同じ。

 おなじ。

 同時に何かを行う、って言うのは体の反応としても、あった。

 例えば細かい作業をしている時。

 指先の動きを行っているはずなのに、肩に力が入ったり、歯を食いしばってしまったり。

 そういうのは『連合反応』という体の反応。

 大まかに言ってしまえばそれらと同じだ。

 風の魔法で髪がはためく。火の魔法で汗がにじむ。



「うわっ」


 ―― 風強すぎ。弱めて。


「はい……っ」


 ―― 火も弱くしちゃ意味ねーだろ。



 そんなこと言われても難しいんですよ。

 天才的な指導者はたまに煽っているように言ってくる。

 本人はもちろんそのつもりはないのだろうなあ。

 練習自体は何度もやっているし、失敗も成功もやっているけれど。

 頭ではわかっていても実際にやってみると難しくて。

 目の前にいるヤビクニが、待ちかねている様にグネグネと体を捻る。

 その奥の二人は、いつでも助けてくれるかのようにこちらを見張っている。


 じんわり。


 じんわり。


 風が収束する。

 熱が(こも)る。光が走る。



 ―― ……小さいが、まあいいんじゃないか? じゃあ、それを投げろ。



 鬼教官から許可が出た。

 右手の風属性をそのままに、左手の火属性をなくす。

 風で包まれているのは、熱せられた空気と、光。

 片手サイズの球状のそれを右手で持ちながら、下段のヤビクニの前に立つ。



「……ごめんね」



 言って。

 放った。


 念のため、高めに上げて、落ちるまでの時間を稼ぐ。

 宙を漂っている間に、私自身、船から足を離して浮く。

 動かず、泣き声をあげず。

 ただただ球が落ちるのを見つめている様に見えるヤビクニは、落ちてきたそれを体で受け止め、音もなく、一際大きく体を震わせた。

 そしてそのまま、二度と動かなかった。


 放った魔法は、オリジナル合成魔法≪伝雷≫。

 スグサさんが作った、複数の属性を同時に使った、不可能と思われていた魔法。

 やってみろと提案されたときは気は進まなかったけど、電撃は一瞬で意識を奪えるので、討伐するときとかは苦しませることが少ない。

 そう考えると、習得したくなった。

 それと、私がどこまでできるのかも知りたくなった。

 スグサさんの身体とは言え、人格は別。

 本人が指導してくれているとはいえ、私は魔法については初心者。

 まさか、できるとは。



「……ごめん」



 もう一度謝る。

 黒く、まだ生きていそうな目。

 動きはしないけど、もしかしたら死んではいないかもしれない。

 地に足を付けた私は二連のネックレスの片方を持ち、銀色の石が形を変える。

 針となったそれを、ヤビクニの首に一回刺す。

 長いようで短い、短いようで長い数秒を、祈るようにそのまま過ごした。



「お疲れ」

「お疲れ様です」



 ふわりと降りてきたカエ様とロタエさんの声に、夢の中から覚めたような感覚を覚える。

 針を抜いて、一振り。

 今回針で吸い取ったのは、血。

 鮮度を保つためと、動きを鈍らせるため。

 吸った血がどこに行ったのかはわからないけど、針はそのまま石へと戻す。



「お怪我はないですか?」

「俺たちは大丈夫だ。むしろヒスイが言われるべき言葉だろう、それは」

「そう、ですね」



 後始末は二人が買って出てくれたので、私は船室で休むこととした。

 船特有の香りがして、若干の気持ち悪さを感じる。

 窓を開けて喚起して、潮風を通す。

 天気は暗い。雨が今にも降りそうだ。

 蒸し暑い。湿気が強い。

 うずくまると余計に気持ちが悪かったので、ベンチ上の椅子に横たわって、目を閉じた。






 ―――――……






「いヤー! こンな立派なヤビクニ! 素晴らしいでス!」



 目を開けたら陸地についていた。

 転移か操縦したのかわからないけど、船着き場についてから声をかけられ、今はマルス邸。

 焦げない程度の弱い電気ショックのようなもので一撃。

 暴れたりもなかったので、提示したヤビクニに目立った傷はなく、満足いただけたようだ。



「報酬分はギルドからオ受け取りくダさい! さラに是非この後、宴を開クのでご同席いただけマせんか!」

「いや、今回は遠慮させてもらう。慣れない場所だったので、思ったよりも疲労が溜まってしまって。それにこの後も別の場所に移動しなければならないんだ」



 諸手を挙げて喜んでくれて嬉しいことは嬉しい。

 が、船に酔ったのか疲れからか、マルス様のテンションは見ているだけで辛いものがある。

 気になる話し方も、聞いているだけなのに疲れを感じる。

 正直言えば、すぐにここから離れたい。



「そうですカ……残念です。デはまたの機会に。こチらにお寄りスることがありましタらお声掛けくださイ。全力でお力にナりましょう!」

「よろしく頼む」



 疲れた体を無理やり動かして、振り返ることなくマルス邸を出た。

 後ろからは歓喜の声がしばらく聞こえていた。



「アの方ニ報告しなくテは!」

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