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【コミカライズ12/26から】魔術師は死んでいた。  作者: 彩白 莱灯
フォリウム学院

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第114話 ≪夜空に浮かぶ泡沫≫

 ピィーーーーーーーーーー。


 甲高い音が、どこまで届いているのかわからないくらい遠く、遠くまで響き渡る。

 それこそ深海まで響いていきそうで、水面を覗き込む。

 ……見える魚は釣れないと聞いたことがあるが、驚くほど反応がない。

 本当にこれで大丈夫なのか。

 疑うのはまだ早いと自分に言い聞かせて、息を吹き続ける。



 ピィーーーーーーーーーー。


 ピィーーーーーーーーーー。


 ピィーーーーーーーーーー。



 ピィーーーーーーーーーー。



 ピッピィーーーーーーーーーー。


 ピィーーーーーーーーピピッ。


 ピィーーーーーピィーーーーー。




 休憩を挟みながら。

 音の鳴らし方を変えながら。

 幾度となく試す。

 反応のない魚たちを見て、もう驚かなくなった。

 逆に面白さも感じる。

 海はより、波が強くなってきた。

 水面に空の光が反射していたが、いつの間にかなくなり、見上げれば雲が厚くなっている。

 周辺も薄暗くなり、より風が吹いて蒸し暑さの代わりに寒さを感じてきた。

 そろそろ終わりかな。

 そう思って、必要最低限しかない薄いの腹筋に鞭を入れ、思いっきり強く、音を出す。


 ピィーーーーーーーーーーーー。


 ……、揺れた。

 波と一緒に、水の中で黒いものが揺れた気がする。

 気付いてからはすぐにまた鳴らし、焦りながら息を吸う。

 後ろで様子を見ていたカエ様とロタエさんは、私の様子で気が付いたのか、体を乗り出して水面を覗き込む。

 私は笛を鳴らし続ける。

 鳴らし続けながら、水面を見つめ続ける。

 ゆらゆら揺れるそれを見続けたことによる酔いを感じながら、気のせいだと思い込んでやることをやめない。



「……いました」

「どこだ!?」

「ヒスイさんの左側。上がってきます」



 体を左に向けると、確かに黒くて大きいものがそこから上がってくる。

 水面が揺れる中、色のあるヒレがゆらゆらと揺れているのが見える。

 上がってくる胴体は……え、あ、うわぁ……。



「青いんだあ……」



 青いクワガタって、レアだなあ……。

 ギリギリ空気に触れない位置まで浮いてきて、姿がよく見える。

 青いクワガタの頭に、ハゼのようなどちらかというと平べったい体を持ち、全体が青い鱗で覆われてキラキラと輝いている。

 ヒレは透けているようだが、端の方は赤やオレンジがついている。



「クワガタが泳いでる……」

「くわがた?」



 こっちの世界にはクワガタはいないのか。

 虫としては存在せず、海中生物なんだ。



「ここからどうするのですか?」



 あ。物珍しさに水族館のように眺めてしまっていた。

 ロタエさんの指摘に、鱗笛(りんてき)を手渡す。

 貴重なものだから壊してはいけない。

 荒れてきた海に体が傾く。

 船の甲板、先端に行き、海中を揺蕩うクワガタグッピー、ヤビクニを見据える。

 笛の音に寄せられてきて、こちらを攻撃してくる様子はない。

 もともと凶暴な生物ではないそうで、こちらから攻撃してこなければ仕掛けてこないらしい。

 内心、謝りながら、魔力を練る。



 ―― 作戦通りいくぞ。まずは、浮かせ。


「はい」



 スグサさんの声を聞いて、手を伸ばし、魔法の範囲を決定する。

 ヤビクニの大きさがあるのと、優雅に泳いでいるせいで狙いが固定できない。



 ―― 焦んなよ。あいつらは攻撃されたと気付けばすぐに潜る。またやり直しだ。


「はい……!」



 呼び寄せるまでに何分かかったろう。

 今みたいに人がいない状況でやれるかわからない。

 できれば、今、捕えてしまいたい。

 魔力を練り上げ、放つ。



  ≪夜空に浮かぶ泡沫≫



 水中のヤビクニを、水で包み込む。

 海が続いているはずなのに、一定以上進めず、壁を伝うようにくるくると一つの所を回って泳いでいる。

 ≪夜空に浮かぶ泡沫≫は、≪隔絶された水槽≫と違って内に空気を含む。

 今回は水中にいる相手に対して使ったので、空気があるはずの所には水が入っているのだが。

 なぜ今回は≪泡沫≫を使ったか。ラースの時に≪水槽≫を使ったのもあるが。



「船の上に移動します。二人は上の方に移動していただけますか」



 この水玉、動かせる。

 二人が船の上に移動したのを確認してから、ゆっくりと腕を上に動かす。

 ヤビクニを中心に水の球体が海面から離れ、球体の水槽を持ち上げている様。

 ヤビクニは暴れず、落ち着いて泳いだまま、船の上に移動できた。

 甲板の一段下にヤビクニを下ろし、魔法を解除した。



「いいのか!?」

「大丈夫です」



 開放するって言ってなかった。

 驚かせてしまった。

 ≪泡沫≫の中にあった海水が流れ出し、船が一瞬にして水浸しになる。

 水がなくなったことでヤビクニも暴れるが、形はハゼなので、船の床に沿って体を捻るだけだ。

 ビチビチはねないでくれて助かる。



 ―― さあ。難しいのはここからだ。へまするなよ。


「はい……」



 幸い、雲が多い。

 多少威力が上がってしまっても、まあ誤魔化しは効くかな。

 周囲は水だし火災になっても一応大丈夫……かな。

 カエ様とロタエさんは危険そうならすぐ立ち退いてもらわないといけない。

 船の上の方にいる二人に対して、声を上げる。



「カエ様、ロタエさん」

「どうしたっ」

「一応、転移の準備をしておいてくださいっ」



 返答は効かず、私は私の魔法のための魔力を練る。

 両の手を上下に出し、ヤビクニを挟むように構える。


 上の右手は、風。下の左手は、火。



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