第112話 まるまるまるす
シャワーを浴びた順で、風呂場が温まっていないことに気付かれたかな。
最初にベローズさんに「死体」と言われた時から、温めてはいけないのではないかと考えていた。
最初に目が覚めた時……もうほぼ一年前に温かいシャワーを浴びたきりだ。
冬は辛かったけど。
体を保温したり温かいものを飲んだり、そう言うことはできる。
なので温かいシャワーも大丈夫なのではと頭では考えているのだが、実際に行動には移せない。
言われただけで、普段出来ていたことが出来なった。
それ以上は指摘されず、弁解もせず。
でもそれが苦痛になるようなことはなく。
次の日備えて眠った。
―――――……
「ああ、ここだ」
街の人たちに尋ねながら、周囲よりも一際大きい家の前に来た。
敷地も家も庭も、全てが大きい。
ギラギラ、と言うほど装飾はされていないが、人目を引く程度には豪勢だ。
街路路に面した門に門兵がいて、声をかけると中へ通してくれた。
玄関までも歩く。
建物の扉の手前に、小ちゃくて丸い人がいる。
「ヨウコソお越しくださいまシタ!」
髪の毛くるんくるん、ちょび髭もワンカール。
体全身でカーブを描いている見た目は、子ども人気そうだ。
着ている服は艶やかで、見ただけでいいものだと言うことがよくわかる。
おそらくはこの人が、ドゥ・マルス様。
「こノ度は遥々オ越し頂き、アりがとうござイます! ササッ、お茶のご用意がありまスので、お上がリくだサイ!」
引っかかる喋り方をする人だ。
手元はちょこちょこ、足はパッタンパッタンと、身振りも忙しない。
歩きに関しては丸い体がどうにも動かしにくそう。
先頭を歩いて案内された先は、食堂らしき部屋。
お菓子と紅茶が用意されていて、歓迎する気満々なのが手にとるようにわかる。
長方形に伸びたテーブルは、短辺の席同士の顔がわかるかどうかと言ったレベルで長辺が長く、普段はどれだけの人数を読んでいるのだろうかと疑問を持つ。
三人が並んで席につき、冷たい紅茶を出される。
緊張からなのか、紅茶の香りがわからない。
マルス様が正面に座った。
長辺で向かい合っているから、顔はよく見える。
「改めまシテ、私が依頼主のシルクラス・ドゥ・マルスです。 この度は依頼を引き受けてくダさリ、感謝申し上ゲます!」
テーブルに両手をついて、深々と頭を下げた。
テンションはライラさんに似ているところがあるなあ。
「私はコウ・ゼ・フローレンタム。ですが任務中は「カエ」と名乗っておりますので、どうぞそちらでよろしく頼む」
「わカりました! カエ様でゴザいますネ!」
握手を交わす。
「ロタエ・ドゥ・スピニングと申します。魔術師副団長として、カエ様に同行させていただいております」
「お噂はかネがね! よロしくお願いいたしまス!」
握手を交わす。
「……ヒスイ、です」
「ヒスイ様ですネ! 慎ましイお方なノデすかナ!?」
ワッハッハ、と。
握手を交わす。
この人は、家名を名乗らなくても対等に扱ってくれるタイプ、なのだろうか。
ロアさんのこともあったから多少の警戒もありつつ名乗ったが、豪快笑いで流されて、前者二名と同様に握手を交わした。
ああ、それだけで「良い人かも」と思ってしまう私は単純だなあ。
「デは早速ですガ! ヤビクニの件をお引キ受けいたダいたと言ウことで!」
「はい。この後ギルドに寄ってから向かいます」
「そうですかそうですか! ご健闘をお祈りさせていただきます。して、一つお願いがあるのですが」
指を一本、天井に向ける。
意味慎重に無言の時間を設け、目を細めて、声を落とす。
「多少の傷は構いまセんが、なるベく早く体はそのマまでお願いシます」
「そのまま、とは、本体を切断せず、と?」
「その通りでゴざいまス」
「火は?」
「焦げハあまり好みませんネ」
縛りが増えた。
足場不安定、火属性魔法は非推奨、切断や刃物の使用もなし。
接触や近接も危険
うーん。骨が折れそう。
「聞くが、ヤビクニを買い取って、どうする?」
「食べるンですヨ!」
今日一の明るい表情で、白く輝かしい歯を見せつけられた。
ええ……食べるの……、クワガタグッピーを……?
カエ様もまさか食べるとは思っていなかったのか、口元がひくついている。
流石のロタエさんは表情ひとつも変えていない。
膝の上の手は反応してたのは見た。
「アれは美味しいんでスよお! なゼか賛同者がイないのですガ、そレはそれで独り占メできルのでね! よロしければ成功しタ暁ニはご一緒に如何でス?」
嘘偽りのなさそうな顔でお誘いをいただいたが、三人揃ってひとまず保留にさせて貰った。
私は絵を見た時から食べるのはないと考えていたが、仮にも貴族で依頼主の人に、問答無用で「NO」とは言えなかった。
こればかりはしょうがない。
「ヒスイから確認したいことはあるか?」
代表として話していたカエ様から、話を振られる。
マルス様の目を見れば、拒否も拒絶も嫌悪もなく、むしろ逆に好奇心を向けられているようにこちらを見ていた。
「では、一つだけ、よろしいですか?」
「一つと言わズ何個でもかまいませんよ!」
「ありがとうございます。お食べになると言うことは、食べられる程度に扱ってきても構いませんか」
「ソれが切ると言ウことでなけれバ構いません。ムしろ有難いですね! よリ新鮮な状態で調理してくだサるのなら、今までデ一番美味しくなるヤもしれませン!」
ワッハッハ。




