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【コミカライズ12/26から】魔術師は死んでいた。  作者: 彩白 莱灯
フォリウム学院

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第111話 怪鱗・ヤビクニ

 お婆さんはそう言って、カエ様を見るが。

 私が今の話を聞いて気になったのは三つ。


 一つ。お婆さんはカエ様のことを知っているんだな。

 二つ。「ドゥ・マルス」様ということは貴族。上から二つ目。ロタエさんと同格だ。

 三つ。随分と歓迎してくれているようだ。任務なんてどんな相手が来るかわからないのに、任務を受けた全員に今の伝言を伝えているのというのは。どうも。歓迎というより、逆になんか、怪しさを感じる。


 マルスさん……様の方が良いか。どういう人なんだろう。



「知っている。この土地の領主だ。悪い噂は特に聞いたことがないが」

「私も名前は存じております。気前のいい御仁だと」

「そうさね。この依頼も町興しの一つとしてあの人が自腹はたいてやってるんだ」



 疑ってしまったのが申し訳ないような評価だ。

 この町の領主であるその人は、自腹を切ってまでこの町を賑やかにしたいのだろうか。

 まだ街中には出ていないが、そこまで活気がないのか、ただただ趣味なのか。

 この伝言から察するに、社交的な性格なのだろう。

 町を賑やかにしつつ、旅の話を聞くのも好きとか?

 勝手な先入観は良くないが、違和感はぬぐえない。

 それでも悪い噂がないのだから、思い込みだろうと判断するのが良いか。



「それで、今から行くんなら連絡するついでに入れておくが、どうする?」

「……今日の所は遠慮しよう。明日の朝伺うと伝えてもらいたい」

「あいよ。じゃあ明日、また来ておくれ」



 あ、行かないんだ。

 不信感を負い抱いている私としては安心。

 カエ様とお婆さんが話を付け、今日の所は話は終わり。

 お婆さんに手頃な宿を紹介してもらい、部屋を二部屋とった。

 夕飯を適当に済ませ、続き部屋の片方に三人が集まっている。



「まずはドゥ・マルスについて話をしておこう」



 私が不信感を持っていることに気付いていたのかな。

 実際のところはわからないが、なによりも先にその人について教えてくれた。

 恰幅のいい、かつ装飾品が多めな朗らかなおじ様らしい。

 見た目は成金そのものだが、ただの派手好き。

 誰かとワイワイはしゃいだり、奢ったりすることが好きなのだと。

 気前のいいおじさん、らしい。

 おじ様よりおじさんがあっていそう。

 悪い噂も特に聞かないし、お城に来たこともある。

 力試しやら町興しやらするのも不思議ではないと。



「俺たちが知っているのはそれぐらいだ」

「なんとなく印象は変わりました。良いほうに」

「マイナスからは脱したか?」



 それはノーコメント。黙っていたら察してくれたらしい。軽く笑い飛ばしてくれた。


 知らない人の印象を、いくら信用している人からの情報と言っても、全面的に信用する正確ではないらしい。

 こんな疑り深かったかな、と思うけれど、ただ警戒心が高まったのかもしれない。

 優しそうな見た目でも、人が気にしていることをずけずけと言う人もいたし……。

 それ以上、マルス様について言うことはないようで、次は任務の内容について。



怪鱗(かいりん)・ヤビクニについてだ。深海生物で、呼び寄せるには専用の笛が必要らしい」

鱗笛(りんてき)はギルドの方で用意されているとのことです」

「マルス殿の用意だろうな」



 ロタエさんが受付をした時、すでに用意はされていたらしい。

 だから本人たちの装備だけ用意してくれと。

 準備がいい。

 何度もこの依頼を出しているとみる。



「ヒスイは生態について調べたか?」



 調べました。

 絵を見た。

 ヤビクニというのは、簡単に言えばクワガタの頭に胴体が魚。

 グッピーを思わせるフリルのような尾びれを持っている。

 ……この例えは結構上手いほうだと思う。

 虫の足がワキワキしてたら辞退したくなったけど、顔だけならまだいける。

 本当に本当に良かった。

 大人よりも大きく、太い。

 大きなクワガタの頭にはなるべく近づかないようにしたい。

 深海に住んでいるヤビクニだが、鱗笛(りんてき)という特殊な音に良く反応し、海面まで上がってくるそうだ。

 それでも必ずではないので、根気強くチャレンジする必要がある。

 クワガタの鋏のような牙に挟まれることは厳禁。

 鱗も一つ一つが鋭いので、接触は注意。乗ったりするのは推奨されない。

 海辺での戦いになると思うので、足場も不安定になるだろう。



「どう戦うかは今回は決めてるのか?」

「一応決めては来たんですけど、失敗する可能性も捨てきれないかな、と」

「それはどんな任務でもあり得ます。慢心しないことが大事ですよ」



 優しさからのぴしゃりとした一言に、身が引き締まる。

 失敗ありきで挑む。

 失敗してもこの場に二人と中にも一人いるんだ。

 中の一人程心強い人もいない。



「今日中に、作戦を詰めておきます」

「根詰めすぎるなよ」



 向けられた笑顔に、よりやる気が湧き出てくる。

 夜なのに。

 アドレナリン出すぎて寝れなくなる方が心配だ。



「それじゃあ、解散するか。明日はマルス邸、ギルドの順に顔を出す」

「わかりました」

「承知しました」



 続き部屋で男女に分かれ、私はロタエさんと同室。

 順番にシャワーを浴びて、寝る準備をしている時。



「ヒスイさん」

「はい?」

「体調を崩さないように、気を付けてくださいね」



 聞こえた言葉に、体が強張る。

 私に背を向けたままで話すロタエさんの表情はもちろん見えない。

 それでもテキパキと準備に勤しむ様子は、独り言にしては大きいし、雑談にしては素っ気ない。

 名前呼ばれたけれど。

 けれど、それに悪い気はしない。



「……気を付けます」



 温かいお湯で、体がどうにかなるんじゃないかと。

 水しか使えない私を咎めないでくれるだけでありがたい。

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