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【コミカライズ12/26から】魔術師は死んでいた。  作者: 彩白 莱灯
フォリウム学院

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第107話 ≪隔絶された水槽≫

 洗い流したい。真っさらに。

 そう考えて、一応練ってきた作戦を頭の中で反芻させる。

 目を閉じて、イメージする。

 廃村ということだけあって、自然は多い。

 多いというだけで全く整備はされてはいないが、それはそれで自然と言ってもいいのかも。



「さて。さっそくやるか?」

「はい」



 目の前の村を見据えて、荷物をその場に下ろした。

 荷物を探り、小さい巾着を取り出す。

 さらにその中の石を三つ取り出した。



「一応、使って下ると安心なのですが……」

「これは?」

「感染対策、のようなものです」



 カミルさんや負傷兵たちに反響があった魔石を改良したものを、二人に渡す。

 ラースは体に纏わせた錆や、本体そのものから飛沫する病原菌を、人間にも悪影響があるものとして巻き散らす。

 これから行う方法は飛沫する可能性は低いのだが、暴れることがないわけではないので、念のため。

 石には風の魔法を込め、使用者の周囲に風を起こすようにした。

 めちゃくちゃ弱い台風のようなもの。

 二人とも風属性は持っているだろうが、石を使った方が他の魔法を使えるし、何より燃費がいい。

 首から石を下げ、魔力を込める。

 念のためさらにスカーフを巻いて、より錆と病原菌と吸い込まないように対策する。



「何かあれば合図してくれ」

「後ろに控えてますからね」

「ありがとうございます」



 二人よりも前に出る。

 村の入り口だろうか、丸太で作られた仕切りの中に入る。

 耳を澄ませば、微かに聞こえる物音。

 方向は正面、多方から。

 姿こそ見えないものの何かがいるのは間違いない。

 小さく深呼吸をして、中の人に話しかける。



「スグサさん。指示をお願いします」


 ―― あいよ。



 楽しんでいそうな声が頭の中で響き、不安が取り払われる。

 この人はたまに不安にもさせるけど、それ以上に安心感を与えてくれる。

 同じ体を持つという贔屓目はないと思う。

 それこそが『最高位』と言われていた証なのだと、カエ様たちの話を聞いた後だからこそ思う。



 ―― じゃあまず、正面左。奥行き分までしっかり囲め。


「はい」



 指定されたものを見据え、左手を伸ばす。

 建物の枠組みが辛うじて残っているそれを確認し、余裕を持って範囲を決める。



(イズ)中級魔法(フィフォ) ≪隔絶された水槽≫」



 シオンがロアさんとの決闘で使っていた、危険な魔法。

 危険な魔法ではあるが、今回は討伐が目的なためコスパも考えて使うことにした。

 ラースは群れを作る。

 小さい群れなら十数匹程度だが、一つの村に巣食っているならば百、千単位でいるかもしれない。やりきることを目的としたら、コスパは重要だ。

 空気のない≪水槽≫の中では、底の方で藻掻く、拳大の生き物が見える。

 小屋程度の範囲だが、小さい群れ程度では収まらない数がいるようだ。

 うじゃうじゃと。

 三十はいるか。



 ―― 次。右奥。地面下も含めろ。



 スグサさんに指示してもらっているのは、コントロール訓練のため。

 指定された部分に的確に発動できるかを評価してもらっている。

 属性文と魔法名を唱え、地面に食い込んだ≪水槽≫を作る。

 土の中から小ぶりなラースが空気を求めて搔き出てきた。



 ―― でかすぎ。次。その裏にある形の残ってるやつ。同じように地面含む。


「はい」



 指示と指摘された内容を自分に取り込み、同じことを繰り返す単純作業。

 こんなふうに駆除をした記憶はないのだけれど、淡々とやっている自分は何を考えているのだろう。

 別に、虫を殺してしまったことはある。

 それが動物のような見た目になっただけ。

 それが、この世界では普通に有り得ること。


 前の世界では、殺す対象……命を主観で選別していた。

 動物愛護もあった。

 それが、この世界では動物以外に魔物という種類がいて、それは害獣に分類されていて、必要があるから討伐している、ただそれだけ。


 違和感、ギャップ、虚無感。

 例えようのない感情を持ちながら、納得させる言葉を探す。

 これが普通。これが日常。

 害虫・害獣駆除という仕事はあったんだから、それに転職したようなもの。

 人間の生活のために必要なことと割り切る。必要とされているのだから。

 やり慣れていないだけ。

 動物型のものを、殺すということを。



 ―― 弟子。


「っ、はい」



 いけない。ぼーっとしてた。



 ―― 不調は?


「ありません」


 ―― よし、じゃあ次。畑を囲む。



 家よりも高さはないものの、奥行きがある。

 距離感を測る……深視力はあまり自信がないから、予想するよりも大きめに。



 ―― ……小さいな。奥から何匹か逃げた。


「あ……」


 ―― スピード勝負だ。詠唱なしでやってみろ。



 ラースが逃げて姿を眩ます前に、より大きい≪水槽≫を作って拘束する。

 左手を伸ばし、畑の何倍もの範囲で確実に捕獲する。

 小学校にあるような二十五メートルプール程の大きさだった畑に対し、新たに市民プール五十メートル程の≪水槽≫を作る。

 単純計算、倍程度の大きさで、何とか逃げたラースを捕獲した。



 ―― 詠唱なしでこの大きさを作れればようやくスタートラインか。


「……それ、スグサさんの基準ですよね?」


 ―― まあな!



 はっはっは!

 と。豪快な笑いが頭の中を埋め尽くす。

 私は乾いた笑い声しか浮かびませんよ。


 スグサさんの基準は当てにならない。

 それは最近身にしみて感じている。

 学校でも変な疑りを受けたし。

 ここまでで作った水槽は、大きいもので五十メートルプール。

 それが二百個目となった。


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