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マダンの仮捕虜収容所

 マダンの旧日本軍陣地には元日本の兵隊さん達が沢山集まっています。

靴を履いてない者、片手が無い者、膝から先が無い者、杖を頼りに身体を支えている者、隣りの戦友の肩を借りて立っている者、目をやられ宙を拝んでいる者、ハエだらけの者。誰もが見るに耐えない姿でした。

この世の地獄がマダン陣地の中庭に描かれているのです。

あの故郷、日本も多分この情景と変わりないでしょうか。

中庭の中央には、役に立たない三八銃や銃剣、軍刀、短銃が山積みにされ、潮風に晒されています。


 オーストラリア軍の将校が高台に立ちました。

そして敗残兵達に向かって重苦しい口を開きました。


 『ワタシは、オーストラリア軍のピーター・ジョーンズ少佐です』


ジョーンズ少佐はズタズタにされた元日本兵達に向かって、挙手の敬礼をしました。


それを見た元日本兵達は涙を流し始めました。

そして少佐は話します。


 『・・・アナタ達はよく戦いました。ワタシはアナタ達に最高の敬意を表します。日本はこの太平洋戦争に負けてしまいました。しかし、この島の戦いではワタシ達連合軍と互角ゴカクの戦いでした。もしアナタ達にワタシ達の持つ武器・弾薬、食料が有ったなら・・・ワタシ達はアナタ達日本軍に負けて居たでしょう。ワタシはアナタ達を敗者とはていません。ワタシはアナタ達を日本に帰す義務を負います。したがってワタシ達はアナタ達を暫くの間、ジュネーブ条約にしたがって、捕虜ホリヨとして扱います』


元日本兵達は『捕虜』と謂う言葉を聞いてどよめきました。

ジョーンズ少佐は続けます。


 『その前に・・・、裸になり、お互いの身体を洗って下さい。その後、全身を消毒させて頂きたい。着衣は今の軍服から、この『捕虜服(囚人服)』に着替えて下さい。そしてアナタ達の身体カラダを更に三日間、消毒させて下さい。その際、負傷している者はドクタールームで治療します。食料は豊富あります。裁判(極東国際軍事裁判)が終わり次第、アナタ達を本国(日本)に帰還させる予定です。それよりはまず、いまだ島内に残る残兵達をこのマダンに集めなくてはいけません。それから、アナタ達のテントはそのトラックから皆さんで降ろしてください。そして各自のグループに分かれ、規則を作り、それを守り、暫くの間、このマダンで楽しく平和にワタシ達と生活しましょう。その次の事はこの島を撤収する時にまた指示します。・・・ワタシの話しは以上です』


ジョーンズ少佐が高台から下りると同時に、オーストラリア兵達は散水車をマダンの陣地に誘導します。配車が終わると元日本兵達を整列させ、散水車から噴霧放水を始めました。

動ける元日本兵達は久々の散水沐浴に子供の様にはしゃいで居ます。


 治療室の入り口には長机を数机並べ、私達医療班とオーストラリア軍医療班が共同で負傷者の問診と簡単な検診を行い、治療室に整列させて行きます。

立っているのがやっとの竹の様な身体の『壊れた元日本兵』。

オーストラリア兵はマスクをして負傷者達に背中に赤い番号の書かれた捕虜服(囚人服)を渡して行きました。

散水沐浴が終わった元日本兵は、消毒を済ませると背中に黒い番号の書かれた捕虜服を渡され、各自が組み立てたテントの中で一休みして居ます。

各テントにはオーストラリア兵が一人ずつ配置され、暴動の監視にあたっています。

マダンの元日本軍陣地は急遽、『オーストラリア軍の仮捕虜収容所』に変わり果ててしまいました。

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