連合軍旗と赤十字の旗
マダンの陣地の中庭に、オーストラリア(連合軍)の軍用車輌が並んでいました。
陣地の旗柱には赤十字の旗の上に『自由の女神の旗』が靡いています。
終戦の知らせを聞いた敗残兵達が徐々にマダンの町に集まって来ます。
部隊長室には『オーストラリア軍の将校』、金田さん、徳丸さん、緒方医院長、私達ラエの医療班が集まり、これからの事を話し合いました。
オーストラリア軍の将校は、蛇に噛まれた兵隊の治療のお礼にと、マダンの教会に来た方でした。
玄関には連合軍旗と赤十字の旗が交差して立ててあります。
中庭では元兵隊さん達が兵舎から長机を持ち出し、並べています。
伊藤(元衛生兵)さん達伝達班が陣地に戻って来ました。
朝、伝達班として出発した時と今の現実とのあまりの「さま変わり」に驚いていました。
伊藤さん達は躊躇しながら玄関を入り、会議室(元部隊長室)のドアーをノックしました。
私は急いでドアーを開けました。
伊藤さん達三人は挙手の敬礼をしたまま、開いたドアーの前に立っていました。
それを見て奥の椅子に座る、オーストラリア軍の背の高い将校が起立して挙手の敬礼をしました。
オーストラリア軍の将校は非常に謙虚で紳士的な方でした。
そしてその将校は三人に対し流暢な日本語で、
「ゴクロウサマデジタ。ハイッテ、オチャデモノンデクダサイ」
と言いました。
伊藤さんは少し驚いて、緊張しながら、
「失礼します。入りますッ!」
と言って部屋に入って来ました。
土民のメードが机の上に『お茶とチョコレート』を並べます。
伊藤さん達は、それを見て目を丸くして見ています。
そして伊藤さんは、お茶を啜りながら洞窟に残る『アイタペ守備隊植村部隊の敗残兵達』の話を緒方医院長にしました。
それを聞いていたオーストラリア軍の将校はチラリと緒方医院長を見ます。
そして私達医療班を見ました。
私と嶋田婦長は、直ぐに医務室に戻り、医療用具を揃えて外に出ました。
将校は隣りに立つ、あの『蛇に噛まれた兵士』に軍用トラックの運転手を呼ぶように指示しました。