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敗戦と終戦

 午後、金田さんと緒方軍医長が教会から戻って来ました。

部隊長室で幹部が集まり何かを話しています。


暫くして陣地内の残兵達全員に集合が掛かりました。

中庭に私達医療班とマダンの兵隊さん(三十名)、ラエからの兵隊さん(元患者)達が整列しました。

痩せた徳丸部隊長代理が高台コウダイに上がり頼りない言葉で、


 「皆サン、ご苦労様でした。日本は連合軍に負けた様です。我々が今出来る事は散開して戦友達に終戦を知らせる事です。多分、遊兵達の横への伝達は早く伝わるはずです。我々は土民の方々の案内で三人一組で、イマだに戦う人達に終戦を伝えに行きましょう。そして、この『マダンの陣地』に集合するように伝えるのです。多分、この八月中に連合軍から『終戦のビラ』が撒かれるはずです。終戦を信じない兵隊達も多く居るはずです。我々に出来る事は一人でも多くの人達をこの陣地に集め、故国にカエす事です。散開して遊兵に成って戦って居る人達は、この島にまだ数多く居るはずです。一人でも多く、このマダンの陣地に集めて、そして、・・・そして・・・」


徳丸部隊長代理は此処ココまで話すと涙で言葉が続きません。

集まった兵隊さん達全員の目にも涙が溢れています。

すると突然、緒方軍医長が叫びました。


 「よし! 皆な、その柱に掲げた白旗を下しなさい。急いで旗を切って『赤十字の旗』に作り変えましょう。 それを掲げて山に戦友を探しに行きましょう」


 『はいッ!』


集まった兵隊さん達の気合いの入った返事が中庭に響き渡りました。

金田さんが静かに号令を掛けました。


 「ヨシ、・・・かかれ」


旗を下す兵隊さん。倉庫からペンキを持ち出す兵隊さん。旗の柄を探しに行く兵隊さん・・・。


私はそれから先の事は分かりません。


 暫くすると、教会の神父がパンツとシャツを着た『土民の案内人』を連れて来ました。

その中には体の大きな女性も居ました。

神父が、土民の方々に何か話しています。

神父と数人の土民が金田さんの所に行きました。


金田さんは地図をひろげ、神父と土民達の話しを聞いています。


兵隊さん達は白旗を切って作った十枚の『赤十字の旗』を長机の上に並べました。

案内人と三人一組の兵隊さん達。

全部で十組です。

緒方軍医長は一組ずつに『赤十字の旗』を渡して行きます。

金田さんは土民が日本兵を見たと云う地点の地図を紙に写し取り、「シルシ」を付けて各組に順番に渡して行きます。

そして、その紙を渡しながら一言、


 「遊兵は警戒してると思います。日本が負けたと言う事を信じない兵隊も居るはずです。ただ伝えるだけで良いのです。絶対に説得などしてはいけません。分かりましたね。そして、兵隊に『この紙』を渡して下さい」


金田さんはマダンの陣地までの位置、道順を書いた紙を渡して行きます。

そして、


 「今日は、今から四時間だけジャングルに入りましょう。この陣地に十七時半に戻って来て下さい。道に迷わぬ様に案内人にしっかりと付いて行って下さい。いいですか、絶対に説得はしないで下さい。ただ伝えれば良いのです」


 「はいッ!」


 「よし、それじゃあ皆さん、・・・行きましょう!」


私達は案内人を先頭に、ジャングルの中に残留兵を探しに入って行きました。

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