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胃の弱い部隊長代理(徳丸准尉)

 私達がマダンの陣地に到着して一週間が過ぎました。

金田さんの推測は当たってました。

連合軍の攻撃も無く、『壊れた兵隊』さんと『兵隊を放棄した人(金田さん達)』、『置き去りにされた兵隊さん(マダンの部隊)』が、ハカナイい希望を夢見て日々を暮らしていました。

 幸いこの部隊の倉庫には、主力部隊?が散開(逃げる)する際に残していった、重火器や弾の無い機銃、新しい軍靴、軍装等が残されていました。

私達はボロボロの軍服を着替え、ピカピカの「補充兵」の様に、カタチだけは変わりました。

緒方軍医長達も、倉庫の棚から正露丸、アカチン、新しい包帯、ガーゼ等の在庫を見つけて、一安心してました。

マダンの若い徳丸部隊長代理は、胃が弱いらしく青白く、痩せて神経質そうな兵隊さんでした。

徳丸部隊長代理は毎朝一人で、歯を磨き、塩水でウガイをした後、軍隊体操をしています。

マダンの残留兵も「十人」ほどりましたが、皆さん、あまり頼りに成る様な兵隊さんでは有りませんでした。

多分、前の部隊長さんは散開する時、「面倒くさい兵隊さん達」を此処に残して行ったのでしょう。

後日、残留兵の一人に詳しいお話を聞いてみると、


 「徳丸准尉はいつも上官に怒鳴られていた」


と言うのです。

徳丸准尉さんは学徒兵出身らしく、此処に残された時も、


 「オマエは役に立たない。此処で死ね!」


と部隊長さんにイジめらていたそうです。

残留兵達は、気の弱い准尉さんが自殺でもするのではないかと心配してたそうです。

幸いこの時期に、「次はマダンだ」と云う情報が伝わって来て、部隊長さん達が一目散に散開(撤退)して行き、残された准尉さんは元気な顔色に変わったと言ってました。

残された兵隊さん達は、もし連合軍が攻めて来たら国旗掲揚柱に『白旗』を揚げるつもりで、日の丸の赤い所を白に塗り替え、準備していたそうです。

私は実に賢明な判断だと思いました。

そして、私達の御守りに成ってくれた『赤十字の旗』も是非、その下にカカげて欲しいと頼むと、「是非に」と言って賛成してくれました。


 暫く話しをて居ると、崔軍医が来ました。

崔軍医は私と話していた残留兵を見て、


 「何処か具合の悪い所は無いですか」


と尋ねました。

するとその残留兵が、


 「実は、に成ってしまいまして・・・」


と答えていました。

こちらに来た時、重火器や米等の重量物を運んでいて、「痔」が出てしまったと言うのです。

私は、何と情け無い事を言う兵隊さんなのだろうと思いました。

此処の兵隊さん達は連合軍と戦った事も、病と闘った事も無い様です。

こういう兵隊さん達も、ニューギニアの戦場には居たのです。

私はまたふと、頭の中をヨギりました。

此処に居た部隊はいったい何処に散開して行ったのでしょう。

多分あのジャングルの中で、今、生きる為の最も悲惨な闘いをしているのではないかと心配してしまいた。

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