ヒビの入ったメガネ
金田さんがこんな事を話してくれました。
「この辺のジャングルには連合軍の掃討兵や土民の密偵が沢山潜んで居ます。それは山の向こうで日本軍が道路を建設して居たからです。そこを連合軍が空爆、日本の兵隊達は山を越えてこちらに向かって敗走して来ているのです。オーストラリア軍のフィンシハーヘン攻撃も日本軍の輸送路を断ち、道路構築を止める事が目的だったのです。土民は最初の内は、日本軍に協力的でありました。が、敗色の色が濃くなるにつれて連合軍に加担して行ったのです。それは、『情報』に対して報酬を出したからです。此処からマダンまで、距離はそんなに有りません。しかし、まともに進んだらこれだけの人数です。目立ち過ぎます。とりあえず年内は此処に留まって、明けて直ぐにマダンに移動しましょう。正月は連合軍の動きは止まる筈です。それまで此処で、釣りでもやりながらゆっくりと骨休めでもしておきましょう。ねえ、婦長サン」
野嶋婦長は、金田さんの言葉が急に自分に向けられので、
「え? あッ、まあ・・・はい」
と答えてました。
緒方軍医長は金田さんを見て、
「・・・さすがだ。よし、皆な! 此処で大休止しょう」
と言って、『ヒビの入った眼鏡』を右手で押し上げました。
私としては食料さえ有れば何ヶ月でも、此処で我慢は出来ます。
ラエの病院から生き残った数少ない兵隊さん達もそう思ったに違いありません。
それで、故国に帰れるのであれば・・・。