赤十字の旗が狙われる
敗走中に我々を見付けて、連合軍の戦闘機が編隊(三機)を組んで襲って来ました。
私達は散り散りに砂浜からジャングルの中に逃げ込みました。
暫く戦闘機の機銃掃射が続き、砂浜には数十名の兵隊さんが倒れています。
酷いものです・・・。
操縦士は当然、『赤十字の旗』は見えた筈です。
武器も無く「骨と皮」の敗残兵(患者)達に容赦無く、狙い撃ちして来たのです。
戦闘機の爆音が遠くに去り、兵隊さんが一人、また一人と砂浜に出て来ました。
緒方軍医長以下、二人の軍医、私達看護婦、三人の看護兵、二人の衛生兵達は幸い皆、無事でした。
私達は砂浜に倒れた兵隊さん達に『合掌』して、また隊形を整え、粛々と数十キロ先に在る海沿いの日本軍陣地へと向いました。
暫く進むと、前方に一見元気そうな兵隊さん達の隊列が見えました。
赤十字の腕章を巻いた松本衛生兵が前に進む隊列に走って行きました。
暫くすると松本さんが戻って来て、緒方軍医長に何かを報告しています。
『ラエ・サラモア守備隊の残兵』だと聞こえました。
目を凝らして見ると、兵隊さん達は負傷こそしてない様子でしたが、全員見るに堪えない姿です。
たとえフィンシハーヘンの陣地に辿り着いても、その陣地が健在で在るかは分かりません。
まるで「死地」を求めて移動する『野ネズミ』の様なものです。
私達の向かう所すべてに、希望の持てる場所は無い筈です。