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担架の話し

 暫くして、緒方軍医長が病院内から出て来ました。

伊藤衛生兵と松本衛生兵に何かを指示しています。

倉庫に走って行く二人。

暫く見ていると、倉庫の中に保管してある『担架』を出し始めました。

私は驚きました。

そして軍医長は整列している兵隊さんの前に立ち、


 「残った患者達を担架の載せて運び出して欲しい」


と言ったのです。

兵隊さん達はその言葉を聞いて、暫く茫然ボウゼンとしていました。

そして軍医長は、


 「何をぐずぐずしている。『戦友』だぞ。早く運び出しなさい!」


と怒鳴りました。

兵隊さん達も『戦友』と聞いたら運び出さずにはいられません。

私は軍医長の「その一言」に感動して、涙が溢れ出て来ました。

私達は急いで入口に積まれた担架を抱え、病院の中に入って行きました。


 手、足の無い兵隊、眼の見えない兵隊、耳の聞こえない兵隊、言葉の失った兵隊、かろうじて息をしている兵隊、ただ笑って居るだけの兵隊、熱で震えている兵隊・・・。

全ての『壊れた兵隊』さん達を、壊れた兵隊さんが運ぶのです。


 病院の中に入ると、ムシロのベッドに横たわる兵隊さん達は、痩せこけた兵隊さんの抱える担架を見て大粒の涙を流しながらこう言いました。


 「おい、オレを運ぶ事が出来るのか?」

 「オレを何処へ運ぶつもりだ」

 「船は着いて居るのか?」

 「オレは、此処に残る」

 「構うな。オレなどに構わず、オレ達のイクサ故国クニに伝えてくれ」

 「もういい、もうタクサンだ。オレはもう死んで居るんだ」

 「キサマ等はバカか! キサマ等にオレを運べるはずが無いじゃないか」

 「手榴弾を置いて行け!」

 「ジブンは足でまといに成るだけだ。此処で死ぬ。この紙に書いてある所に、この手紙を届けてくれ」

 「ありがとう。でも、ジブンは故国クニに戻っても、この身体じゃ何も出来ない。先に行ってくれ」

 「触るな! オレにサワルナ。放っといてくれッ!」

 「無理だよ。ムリじゃないか。オマエ等、何処ドコへ行くつもりだ?」

 「オレはもう生きたくないんだ。そっとしといてくれ」

 「終わった人間をキサマ等、何処ドコへ運ぶ!」

 「オレの短銃を取ってくれ。今、此処ココで終わりにする」

 「もう、動きたくない。オレは眼が見えないのだ」

 「ジブンは、此処ココで待ちます! 先に行って下さい」

 「軍医を呼べーッ! 聞きたい事が有る! キサマ等の担架の世話にはならない!」

 「オマエ等はバカか。此処ココから出ても死ぬ事には変わりがないじゃないか」


担架を抱えた兵隊さんは、動けぬ兵隊さんの傍に担架を置いて、また病院の外に出て行きました。


 『どうして良いのか分からなく成ってしまったのです』

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