赤十字の腕章(吉岡 功・衛生兵)
受付に長く並ぶ傷病兵達の中に、『赤十字の腕章』を腕に巻いた『吉岡 功』と云う『衛生兵』が居りました。
吉岡さんは五人の傷ついた兵隊さんを連れていました。
吉岡さんも負傷し、脚絆で右腕を吊っていました。
五人の負傷兵は、
一人は、左足をやられ木の枝の杖を突き、
一人は、頭と目に包帯を巻き、
一人は、軍衣が破け、腹から血が滲み出し、
一人は、破れた軍袴にボロボロのシャツを羽織り、手には飯盒を持って笑っています。
そして、最後の一人は左肘から先が無く、ベルトで肩をキツく縛っていました。
順番が来て、吉岡さんは受付の原看護兵に報告しました。
五人の負傷兵は吉岡さんの側を片時も離れません。
原看護兵の声が聞こえました。
「ご苦労さまでした。大変でしたね」
「ハイ。道に迷ってしまって、ようやく此処に辿り着きました」
原看護兵は吉岡さんの周りを囲む負傷兵達を見て、
「・・・五人連れて来たのですか?」
「いえ、ジブンと頭と目を負傷した崎田部隊の井上上等兵だけです」
「? 他の四人は?」
「分かりません。振り返ったらジブンの後ろに付いて来たのです」
原看護兵は吉岡さんの周りに取り付く負傷兵と、後ろに並ぶ長い列の傷病兵達を見て深い息を吐いていました。
多分あの兵隊さん達は、吉岡さんの「赤十字の腕章」を頼りに、一人、また一人と藁をも掴むが如くジャングルの死の街道を彷徨いながら、このラエの「野戦病院」まで辿り着いたのでしょう。
私は吉岡さんとそれに続く負傷兵達を見て、「赤十字の腕章」の重さを痛感せずにはいられませんでした。
井上隆志 陸軍上等兵
(昭和十九年東部ニューギニアにて戦死)