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保身の上級指揮官(陸軍・大佐)

 今朝ケサも病院の受付には、十三人の負傷した兵隊さんが並んでいました。

最後尾に並んでいる兵隊さんは、二人の兵隊さんの肩を借りて立っていました。

すると突然、肩を貸している若い兵隊サンの一人が、


 「軍医を呼べッ!」


と怒鳴ったのです。

外が騒がしいので河村看護兵が赤十字の暖簾幕ノレンマクを割って顔を出しました。


 「・・・どうしました」


看護兵は看護婦に尋ねました。

すると看護兵を見て、若い兵隊さんは再度、


 「おい、衛生兵! いつまで待たせるのか。上官は重傷だぞ。軍医を呼べッ!」


と命令しました。

私は何事かと思い病院の窓から、暫く外を覗いて居りました。

見ると怪我ケガをした「年配の体格の良い兵隊さん」が憮然とした態度で河村看護兵を睨んでいます。

階級章はハズしてありましたが、一見して『上級指揮官』と云う事が分かりました。

 暫くして「崔軍医」が外に出て来ました。

この崔軍医は「朝鮮半島出身」の軍医だそうです。

私は今まで、その事に全く気付きませんでした。

普段の崔軍医は非常に寡黙カモクな方で、必要以外の事をほとんど喋りません。

が、この崔軍医がハッキリとした口調でその大柄な兵隊さんに、


 「順番が有ります。静かにお待ち下さい」


と言い放ったのです。

その「口調」を聞いて、負傷した上級指揮官は地面に唾を吐き、


 「何ッ! この朝鮮人が・・・」


サゲスみました。

私はその言葉に非常に憤慨して、心が痛みました。

この後に及んで、まだこの上級指揮官らしき体格の兵隊さんは、人間を「差別」して居るのです。

この『莚の病院』では、階級は名札に書いてあるだけで、亡くなってしまった場合の記録簿に残す為の目印であります。あまり意味など無いのです。まして私達は「赤十字の旗」を掲げている以上、全ての人間に「愛と平等」の精神を持って、接して居るのです。

ただし大きな陸軍病院との違いは、此処は適当な環境と薬、豊富な手術道具などが不足している事だけです。

すると崔軍医は少し笑って、


 「待つ事が出来ませんか・・・」


と、その体格の良い兵隊さんに優しく尋ねました。

その兵隊さんは崔軍医を睨んで、


 「キサマ~・・・、待てんッ!」


と言ったのです。

崔軍医は、


 「そんなに、生きたいのですか?」


と冷静に聞きました。

体格の良い兵隊さんは怒りに震えています。

連れの二人の兵隊さんは、その「上官」を必死に静止しています。

暫くしてこの兵隊さんの順番が廻って来ました。


 此処から先は治療室に居た野嶋婦長のお話です。


 『治療室で、渡辺軍医に傷を治療してもらう際、この兵隊さんはジブンで自分の足を撃ったと言ったそうです。弾は貫通していました。

何故ナゼ、撃ったのかと渡辺軍医が尋ねると、


 「責任を取って一命を奉じた」


と言ったそうです。

軍医は、


 「急所を外してですか?」


と怪訝な顔で、体格の良い兵隊さんの眼を覗いたそうです。

するとこの兵隊さんは、


 「そんな事はオマエに話す必要はない。それより次の病院船の情報は入ってないのか」


と渡辺軍医に聞いたそうです。

野嶋婦長は、ハラワタが煮えくりかえって、蹴飛ばしてやろかと思ったそうです。

その兵隊の名前ですか?

それはちょっと・・・。

ただ、『陸軍の大佐』だと野嶋婦長は言ってました。


 この兵隊さんは、噂では帰国して元気に生存して居たと聞いています。


沢山、居たそうです。

こう云う急所を外し、『保身に走る上級指揮官』達が。

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