表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/60

小指の無い武次郎(前科3犯)

 秘密の食料庫には、動ける兵隊さん達が浜から転がして来た大切な『食料樽』が整然と並べて置いてあります。

私も野嶋婦長も、当初これだけ有れば半年は持つと思っていました。

が・・・。


 妙な事に、私が秘密の食糧庫の樽の中を確認に行くと、中身の食料が少しずつ減って行くのです。

誰かが何処ドコかに『横流し』している事は明らかです。

私は婦長にお願いして毎晩、蚊に刺されながら食料庫を見張って居ました。

するとある晩の事。

あの板前出身の「土屋武次郎」がカラ背嚢リュックを背負って、食料庫に入って行ったのです。

暫くすると、いっぱいに成った背嚢を重そうに背負い、倉庫を出て来ました。

私は、


 「武次郎サン? ・・・何をしていました?」


と、声を掛けました。

武次郎はその声に驚いて、一目散にジャングルの中に消えて行きました。

私は急いで食料庫の中に入ってランプを点けました。

すると、倉庫の中は味噌、醤油、塩、缶詰、マッチ、そして米が散らばっています。

不思議な事に「雑貨」と書いてある樽には手を付けていません。

雑貨樽の中身は「蝋燭、線香、提灯、骨壷、紐・・・」等です。


 病院から消えた「武次郎」の事を、私はそれとは無く親戚のタケジロウさんに聞いてみました。

タケジロウさんは、あまり身内の事は喋りたく無さそうでしたが、少しだけ教えてくれました。


 「実はね。・・・あの武次郎と云うアンちゃんは『前科モン』で取手じゃソコソコ、名の通ったヤローだ」


と言ってました。

そして、


 「本当は親戚中に煙たがられていた男で、死んでお国の為に奉公して来い。二度と取手に戻って来るな」


と『三行半の万歳』をされて送り出された『入れ墨者』だと話してくれました。

私はいくら患者さんとは言えど、人をあまり信じてはいけないと、つくづく思いました。


 その晩から巡回時は「財布・時計」などの貴重品は腹巻きの中にシッカリと仕舞って、紐を付けておく事にしました。中には『スリ』も居るからです。

軍隊とは、たとえ病院と言えども、魑魅魍魎チミモウリョウがウヨウヨして居る所なのです。

確かに最初から刺青や小指の無い、顔や頭に傷の有る壊れた兵隊さんも居ましたから。


 土屋武次郎(前科3犯)陸軍上等兵

 (昭和十九年東部ニューギニアにて行方不明)

  戦後、千葉市栄町(闇市)にて検挙される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ