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雨のち晴れの事件簿 ~ 性格も好みも真逆の男女バディですが、異能犯罪者は沈めます ~  作者: 凪野 晴
第5章

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第82話 眠らせ姫と愛国者

 コンクリート製の立体駐車の三階。天井のLED照明が、三人の人物を照らしている。


 制服姿の流灯凛花の前には、目立つ赤い縁のメガネをかけた女、パトリオット。そして、声が出せず身動きも取れないジョーカーがその後ろにいる。


「……私が、誰か? ふふっ、教えてあげない」


 凛花は軽く微笑んで、パトリオットに言葉を返した。


「…………。ふーん、流灯凛花っていうんだ。綺麗な名前ね」


 パトリオットは、かけているメガネの赤い縁を触った後に、そう言った。


 名前を暴かれたが、凛花は驚かない。


 事前に、法条から告げられていたのだ。タイラントの仲間なら、『スティグマ・システム』にアクセス可能かもしれないと。つまり、今、調べられたのだ。異能者だとも知られただろう。


 そして、凛花もかけているメガネ型端末によって、パトリオットがレベル3のオレンジだと知る。相手は異能者だ。油断はしない。


 凛花は、合気道の足さばきである継ぎ足で、静かに接近する。右手には携帯端末。そのカメラでジョーカーを映す。取り憑いている法条がかけられた『呪い』をなんとかしてくれるはずだ。


「……凛花ちゃんは、『眠らせ姫』って知ってる?」


 パトリオットが尋ねる。声に熱が帯びていた。凛花は、表情を変えずに答える。


「そんなおとぎ話、知らないわ」


「……ふーん。凛花ちゃん、特別な力を持っているよね? ちょっと大人しくしてくれると、お姉さんうれしいな」


 凛花は、やはり異能者だとバレていると理解する。凛花を見つめているパトリオットの瞳が紅くなった。


 途端に、凛花は両手、両足に、縛られるような感覚を味わう。同時に、口元も塞がれた。見ても両手、両足には何も絡まっていない。まとわりついてもいないのにだ。言葉も出せない。


「……凛花ちゃんがどんな特別な力を持っているか知らないけれど、もう動けないでしょう? ね、一緒にこのジョーカーの顔を見てみない?」


 凛花は、腕も縛られた感覚になっていて、右手に持つ携帯端末をジョーカーに向けることができない。だが、法条からのメッセージが、凛花のメガネ端末に表示された。


──『呪い』の正体がわかった。流灯、君の異能なら対処可能だろう。見えて触れられるなら、寝かせられるよな。


 そのメッセージを確認した、次の瞬間。メガネ型端末のレンズがきらめく。モードが変更された。


──『呪い』の正体は、赤外線で視認できる紅い鎖だ。携帯端末のカメラは設定変更すれば赤外線も撮れるから、見える。もちろん、メガネ型端末でも。


 法条が、わずかな時間で『呪い』の正体に気づいたのだ。メッセージを見た凛花は、頼もしい相棒に感謝する。彼の洞察力と発想力は、いつも飛び抜けているのだ。


 赤外線が視認できるモードのメガネ端末を通して、ジョーカーを見た。紅い鎖が映し出される。次いで、凛花は自分の身体を確認する。


 首の周り、両腕、両足に、ぼんやりとした紅い鎖が見えた。


 凛花は、左手首を曲げて、腕に絡みついている紅い鎖に触れた。感触はないが、触れているように見える状態で、自らの異能を使う。


 『眠らせる異能』。それは、生物を寝かしつけるだけではなかった。異能だろうと認識し触れることさえできれば、寝かせることができる。異能の効果を、停止できるのだ。


 両腕に絡みついていた紅い鎖が、錆びて粉々になるように消えた。凛花は、口元と両足に巻き付いている紅い鎖にも異能を使う。


 自由を取り戻した。


「……パトリオットさん。あなたの異能は、もう効かないわ」


 凛花は、勝ち誇ったように言った。ジョーカーの方を向いていたパトリオットがふり返える。


「……えっ? どうして?」


 自由になり堂々と立っている凛花を目にして、パトリオットは驚いていた。その隙に、凛花は走り出す。パトリオットとの距離を、一気に詰める。


 慌てたパトリオットの目が、紅くなった。再び異能を使ったのだ。凛花の足下に絡みつくように紅い鎖が現れる。だが、凛花は倒れないように気をつけながら、素早く左手でそれに触れた。紅い鎖が崩れ、四散した。


「ね、効かないのよ」


 パトリオットは、凛花とは反対側へ走りだそうとした。距離を取ろうとしたのだ。だが、肩がけ鞄の中にしまっている携帯端末から最大音量で音楽が鳴り響く。


 驚いたパトリオットは、バランスを崩しそうになった。


 大音量の音楽を仕掛けたのは、法条だった。パトリオットの携帯端末に憑依して、ハッキングで音楽アプリを操作したのだ。


 凛花がパトリオットに追いついた。再び逃げようとする彼女の左腕を左手で掴む。そして、告げる。


「おやすみなさい。消灯ですよ」


 その言葉を聞いたパトリオットは、膝から折れて倒れ込むように眠りへと落ちた。凛花は、触れた相手を眠らせる異能を使ったのだった。


──彼女の異能を封じよう。


 法条が短く出したメッセージを確認して、凛花はうなずく。そして、雪の結晶が描かれた銀色のメダルを取り出した。由記子から渡されていたものだ。異能の使い方の記憶を奪うことができるメダル。


 凛花は、右手に持ったそのメダルをパトリオットの頬にあてる。左手は、彼女の左腕に触れたままだ。触れた状態で異能を使っていれば、相手は目覚めることはない。


 銀色だったメダルが、金色になった。パトリオットから『異能の使い方』の記憶を奪ったのだ。つまり、もう彼女は異能が使えない。


 凛花はパトリオットを寝かしつけたままにしたくて、触れたままにしている。ジョーカーに目をやると、紅い鎖はなくなっていた。凛花が、パトリオットの異能を封じたからだ。


「……ありがとう」


 仮面のジョーカーが言った。


 チャリン。


 凛花の目の前にメダルが届いた。それは、由記子がタイラントと遭遇した合図であった。

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