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雨のち晴れの事件簿 ~ 性格も好みも真逆の男女バディですが、異能犯罪者は沈めます ~  作者: 凪野 晴
第5章

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第78話 二度目の対決へ

 タイラントは、バックヤードのコンクリート壁をすり抜けることで、白峰由記子から離れた。


 大神町の駅ビルから大通りへと出る。少し不機嫌になっていた。ここへは私用で来ていたのだ。しかし、白峰由記子と遭遇したことで予定を変更せざるを得ない状況になってしまった。


 白峰由記子は追ってくるだろう。こちらの位置がわかるようだし、肝心のメダルをコンクリートに詰められて海に捨てられてはかなわないだろうから。


 タイラントは、両手に付けている小手型端末スキャンアームズで、タクシー配車アプリを起動した。アプリ画面の地図上で、近くにいる自動運転のタクシーを捕まえて、こちらに向かわせる。


 なるべく早く乗り込みたくて、配車された自動運転タクシーの方へと向かう。この場を離れたかったのだ。まずは距離をおき、迎撃の準備が必要だ。


 タイラントは、自動運転タクシーに乗り込むと、行き先を告げる。音声ガイドが無事に行き先をインプットしたことを返してくれた。自らが戦いやすい場所へと移動するのだ。異能者同士の戦いの基本。


 タクシーが静かに動き出した。タイラントは、スキャンアームズでコールする。呼び出し相手は、同僚の殺し屋パトリオットだ。


「……やぁ、パトリかい?」


「だから、私を愛称で呼ぶな」


「申し訳ない。素敵な愛称だから、呼びたくなるんだよ」


「心にも思っていないことを、わざわざ言う必要はないわ。何用?」


 タイラントは、気づかれない程度に軽くため息をついた。用件を伝える。


「例の依頼を実行してもらいたい。おそらくあと小一時間程度で、ターゲットと遭遇する」


「ターゲットの特徴を教えてくれる?」


「左右非対称の仮面をつけていて、深緑のツインテール。服装は、ピエロというかトランプのジョーカーみたいな感じだ。なので、『道化師ジョーカー』と呼ばれている」


「……何それ、そんな面白い奴なの? 興味が沸くわね」


「そうかい? ぼくは絡まれて迷惑なんだけれど。まぁ、とりあえず後ほど。よろしく頼むよ。またコールする」


「OK」


 タイラントは通話を切る。準備は整った。一見すると爽やかな青年だが、その口角は不気味に上がった。


 *


 白峰由記子は、駅ビルのバックヤードにいた。タイラントに逃げられた場所だった。


 コンクリート壁に取り付けられている分電盤から、バチバチと放電が起きる。やがて、それは人の形を成した。ジョーカーが現れた。


「人混みの中でタイラントの異能の記憶を奪う作戦は、残念ながら失敗した」


 由記子は、ジョーカーに向かって告げた。仮面の人物はうなずく。そして、問うた。


「……追うのか?」


 相棒の変声器の声にも慣れてきた。由記子はそれに返す。


「ええ、私のメダルの秘密に勘づかれてしまった。メダルをコンクリート詰めにして海に捨てるって。何としても、それは防がないと。紫乃さんの意思が手の届かないところに行ってしまう」


「……あのタイラントと直接対決することになっても、我々には切り札がある」


「そうね。なので、急いで追いかけましょう」


 ジョーカーの仮面が、肯定するように縦に動いた。


「……ところで、ジョーカーと呼ばれているあなたが『切り札がある』なんて言うの、洒落が効いてるわよね。ちょっと面白かったわ」


 由記子は微笑んだ。相棒の仮面の下は、どんな表情をしているのだろうか。


 *


 太陽が、いつものように西の端へと沈み始めようとしていた。


 タイラントを乗せた自動運転のタクシーは、鉄海区にある流通センター傍の立体駐車場に着いた。四階建てで、その三階に停める。大半の運送用トラックなどは二階までしか来ない。三階は予想通りガラガラだった。


 この立体駐車場は、コンクリート製だ。タイラントはこういった場所を市内に何ヶ所か目星をつけている。戦いやすい場所、つまり異能を発揮しやすい場所は重要だ。


 西日が駐車場の内に差し込み、コンクリート製の柱の影を伸ばしていた。周囲にコンクリート製の柱や壁、そして床がある。タイラントにとっては、有利なことこの上ない場所のひとつなのだった。


「……さてと、どれくらいで到着するかな? こちらとしても絡まれ続けるのも面倒だから、決着をつけたいところだ」


 タイラントは独り言を呟いた。


 自動運転タクシーにはその場に留まるように、スキャンアームズのアプリから依頼しておく。突然、スキャンアームズの画面にメッセージが表示された。ファイルをダウンロードするかという内容だった。YES / NO の選択肢が表示されている。


 全く心当たりがなかった。だが、今左手の中に白峰由記子のメダルがある。スキャンアームズを使っている状態になったから、メダルが反応したのだろうか。


 YESのボタンを押した。だが、次に出たのはパスワードを要求するポップアップウインドウ。


 タイラントは、すぐに理解した。白峰由記子のメダルは、情報媒体のように何かしらのデータや情報を格納できるということだ。そして、その中身のデータをスキャンアームズなどの情報端末へ、おそらくダウンロードできるのだろう。パスワードロックといったプロテクトもかけられるようだ。


 途端に、タイラントはメダルの中に格納されている情報が気になってきた。藤平紫乃が何かしらを、このメダルに遺したのだ。死の間際に、何を遺したのか。その中身を見てみたい衝動を湧き上がってきたのだ。


 幾ばくか時計が進む。


 立体駐車場の坂を何かが駆け上がってくる。だが、エンジン音はなかった。おそらく電気自動車だろう。タイラントは、コンクリートの振動を異能でとらえていたのだ。


 タクシーから降りて、少し離れて待ち受ける。


 目の前に車が止まった。運転席から降りてきたのは、やはり白峰由記子。そして、電気自動車そのものから、バチバチを放電が起き、ジョーカーも現れた。


 陽はもう西に随分と傾き、夜の訪れのカウントダウンが始まっていた。

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