第76話 メダル動画
レインがデスクの傍に置いていたメダルをつまみ、シャインに見せた。りんごの絵柄の金色メダルだ。
「今、そのメダルに何かデータが入っているって、メッセージが来ました」
シャインは、メダルに注目して言った。
レインがうなずく。そして、自らのPCにメダルを触れさせた。シャインがデスクを回り込んで、雨男のそばに立つ。
そのPCはディスプレイが三面ある。その真ん中のに、データダウンロードを示すプログレスバーが表示された。パーセンテージの数字が増えていき、左から右へグラフが伸びていく。
「このメダルは……異能なのか。有澄のトランプカードのような」
「生成できる異能って、何かを取り込めるものなのですかね。有澄ちゃんのカードはいろいろ収納できて便利そうでした」
ディスプレイでは、プログレスバーがもう少しで100%になるところまで進んでいる。
「このメダルはデータを格納できるようだな。だが、それだとただの記録媒体と変わらないよな。何かしら特別なことがあるのか?」
「おそらく由記子ちゃんの異能でしょうけれど、いきなり目の前にメダルが現れましたよ。つい、反射的に掴んだのですけど、そのせいで足止めされてしまったのですよね」
シャインが、先の出来事をふり返りながら告げた。
「……ということは、狙った相手に送ることができるのかもしれないな。瞬間移動のように」
ファイルのダウンロードが完了した。PCのデスクトップに表示されたファイルは動画の形式だった。PCのセキュリティソフトがそのファイルを自動でスキャンする。コンピュータに害を及ぼすプログラムでないかをチェックしてくれたのだ。問題はなかった。
レインは、そのファイルを実行する。動画が再生された。シャインも傍にあるオフィスチェアに腰掛け、一緒に動画を観る。
誰かの主観での映像だった。夜、公園のベンチに腰掛けている。隣にいる女性に話しかける。相手は、藤平紫乃だった。動画は音声がなくて会話内容はわからない。
ベンチにいる二人の前に、男が現れた。立ち上がる二人。映像の主観者は、その男から視線を外さない。歩きながら近づいてくる男は、両手に小手のような端末を身につけていた。歩くたびに、足元のレンガ道が揺れているのがわかる。何かしらの会話の後、映像の主観者は、藤平紫乃に何かを渡した。彼女は逃げるように走り出した。
「映像の主観者は、おそらく白峰由記子だろうな。記憶を映像化して、動画として出力できるのか。興味深い異能だ」
レインのつぶやきに、シャインも同意のうなずきをした。二人は動画の続きを観る。
由記子は、目の前の男に注目しつつも、藤平紫乃へ視線をやった。彼女は、右足を地面から這い出た灰色の手に掴まれて怯えた顔をしていた。由記子に何か言われたのだろう、うなずいた。
男に向き直り、由記子はメダルを弾いた。そして、男に向かって走り出した。うまく接近した由記子は、男の顔へ右手を伸ばした。だが、それは届かず、一気に視界が揺れて、さらに回転する。
「防犯カメラで、白峰由記子が男に近寄ろうとした時の映像と一致する。ふっ飛ばされた時だ」
レインの言葉に、シャインが返す。
「この後、防犯カメラの映像は途切れてましたよね」
動画の続きでは、地面に倒れた由記子が見上げた。その視線の先は、公園の外灯だった。そこからバチバチと放電が起きて、外灯の上に集まりだした。電気の塊から、人の形が形成される。左右非対称の仮面を被った人物だった。
「道化師ッ!!」
二人は思わず声を上げた。
一度見たら忘れない奇抜な衣装、深緑のツインテールだった。
ジョーカーと男は何かを話しているようだった。そして、ジョーカーは、男に向かって雷撃を放つ。だが、それは隆起したコンクリートの壁に阻まれた。返すように、その隆起したコンクリートの一部が無数の弾丸のように変形し、ジョーカーに向かう。だが、それらはジョーカーの身体をすり抜けた。
「なぜ、ジョーカーは、このコンクリート使いを狙っているんだ?」
「何か話している様子でしたよね。音声がないのが……残念です」
残りの動画は、ジョーカーと男の小競り合いが少し映っているだけだった。
レインとシャインは、しばらく黙り込んでいた。
「……ジョーカーが、あの場にいたの? 涼風姉さんかもしれない道化師が……」
シャインはそう言うと、また黙ってしまった。
「藤平紫乃さんの死因から考えるに、この後、コンクリート使いの男に殺されたのだろう……」
つぶやいたレインは、考え込む。事務所はしばらく静かだった。
レインのPC画面に、突如、メッセージが表示された。
──コンクリート使いは、タイラントというコードネームだ。
それを見たレインの糸のような細い目が開く。
「ここにいるのか? 電子機器を操れる異能者。白峰由記子や『眠らせ姫』と同じチームメンバーの誰かさん? いや、君は、法条くんかな?」
──ジョーカーとタイラントに会いたければ、導く。
その追加のメッセージを見て、熟考しようとレインは口元に手を当てた。その瞬間だった。
「お願いします!!」
シャインが即答した。レインは、迷わず答えた相棒の横顔を見る。そして、静かにうなずいた。




